第一物語・後半-日来独立編-
第六十三章 覚醒せし宿り主《3》
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番の思い出は、やっぱり家族といた時だ。
もう訪れることのないものが、悲しくて辛い。
ただいてくれるだけが、どれ程幸せだったことか。
夜遅く屋敷へと帰り、明かりが灯った屋敷がどれ程までに温かかったかを。失って初めて気付いた。
美味しいと感じていた食事も、一人の時は喉を通らなかった。
「会いたいよ……」
分かっている。もう会えないことぐらい。
自身の手で殺めてしまったのだから、言われなくても分かっている。
麒麟が押し進む音も気にならず、過去の日々を巡った。虚ろに思い出す日々もあるが、それも全て思い出なのだ。
奏鳴は動かなかった。
過去を振り返り、未来へと進むための心を調えるために。
騒音を鳴らすかのような、がらくた同然となった戦闘艦や航空船を麒麟は引きずる。黒煙を上げているものもあり、鼻を突く匂いが漂い始める。
周囲が騒ぎ始めた頃。
ふと、頬を撫でる風が吹き。
「今の奏鳴には何が見えてる?」
口を一度閉じていたセーランが、奏鳴に向かって言った。
だから奏鳴はゆっくりと目を開け、眩しさに一度目を閉じ、そしてまた開いた。
ゆっくりと明るさに目を慣れさせるように。
心地好い風が吹く。だが、そんな風は吹いていない。
感じていた。
本来ならば無い筈のものを。
目を開いた奏鳴は見た。まず目を疑った。
小刻みに目が泳いで、動揺を隠し切れていない。
「嘘だ……そんなことが……ある筈がない」
幻でも見ているのか。
あり得ない。
「なんで、いるのだ……」
潤んだ瞳が、光るものを流し奏鳴が見たもの。
目頭が熱くなりつつ、閉じ込めていた気持ちが溢れ出てきた。
ごちゃ混ぜになって一気に、一斉に。
目の前の存在を、奏鳴はあまりの衝撃で受け止め切れていない。
失って気付いた、その温かさ。
一緒に過ごしてきた時間が、もう一度流れ始めるような感じがした。
求めていた、“家族”の温かさを。
奏鳴が見たもの。――それは亡き家族だった。
『ねえ様!』
五人いる家族のなか、短い髪形の少女が元気に跳ね、奏鳴を呼んだ。
「風恵……」
自身の名を呼ばれると少女は笑った。
『ず――と待ってたんだよ。偉いでしょ! ねえ、偉いよねえ!』
「ああ、偉いぞ」
へへへ、と風恵は頬を赤くして喜んだ。
風恵は走り出し、奏鳴へと抱き付いた。
二人いるうちのもう一人の姉。
一緒に寝たりお風呂に入ったりと、自分に付き合ってくれた。
大好きで、自慢の姉だ。
『ねえ様だ――い好き!』
「私も大好きだよ。全く風恵は甘え坊さんだなあ」
『だってまたすぐに離ればなれになっちゃうから』
「どういうことだ?」
『大丈夫だよ! 何時かまた会
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