戦端は凡常にして優雅なりき
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蔑まれようとも、憎まれようとも、侵略を行っているのだから何事にも変わりはない。
卑怯者――――そのくらいなんだというのか。
このような戦に於いて卑怯者と罵る事は弱者の弁舌ではないのか。
乱世の行く末を読んでいたならば、攻められる事くらい頭に入れておいてしかるべき。
隙を突かれたモノが大概に言う言葉こそが卑怯者の一言である。
侵略を行うに於いて卑怯も何もない。なんとしても勝たなければ、ただの間抜けな欲深い愚かな王となるだけであろう。
覇道という厳しく冷たい道はどんな言をも受けてしかるべきなのだから、その程度の汚名は自ら被ってみせよう。
そんな考えの元、彼女は策を用いることを是とした。
麗羽は今、先の戦の自身より一回り成長していた。それを自分でも自覚している。
自身に忠を誓ってくれた正当王佐を得た事で、変わらなければならなかったのだ。
以前であれば、怯えた瞳を携え、本陣最奥でただバカの振りをしながら高笑いを上げ、心の内で涙を流していた事だろう。
今はどうか。
彼女は雄大に、優雅に、華麗に、自身の軍を引き連れ、不敵な笑みを浮かべたまま、兵達の御旗となっている。
誰かが背中を追いかけたくなるような英雄の姿、それが今の彼女といえる。
信頼は自信となり、忠義は心力となり、例え遠く離れていることから、隣で無敵の策を献策してくれなくとも、袁本初の王佐は彼女の事を確かに支えていた。
ふいに彼女は小さく鼻を鳴らした。
自身の愚かしさを自嘲して、そして己が王佐と後ろの全ての者達に感謝して。
後方左右翼に控えるは最愛の友である二人。
彼女の両の羽と呼んでいい古くからの友。戦前にかけてくれた暖かい声を思い出すと心が震えた。
後方中央に位置するは自身の事を少しだけ認めてくれた王佐の友。
彼女の期待に応えられなければ申し訳が立たないと挫けそうになる心を奮わせた。
そして、幾万の兵達は己が姿に存在の全てを乗せてくれているのだと想いを高鳴らせた。
あらゆる感情を内包して麗羽はここに立っていた。
麗羽はただ待っていた。
自分を真っ直ぐな眼差しで、真面目に、愚直に見据えてくれたかつての友の事を。
ただ己自身で全てを伝えるが為に。
†
「圧巻、だな……」
ぽつりと、白蓮は無意識の内に零してしまっていた。
陣を出て行軍を行い幾刻。広がるは眼前を覆い尽くす数多の軍勢。その数、報告の限りでは三万。
対して、白蓮の軍も三万。
なんでこんな事になったんだろうな、麗羽。
目を閉じ、心の内で迫りくる敵の大将である者に問いかける。
確かに私とお前はあまり仲が良かったとはいえないかもしれない。口げんかする事も多かったしな。
それでも、私はお前の事嫌いじゃなかっ
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