焦がれる夏
弍拾玖 耐えろ、粘れ
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りと笑う。
真矢はその笑みに疑いを覚えた。
「こちらの打線はヒットこそ打ってますが、外低めの真っ直ぐを流したもの、内の真っ直ぐを詰まりながら振り抜いたものが殆ど。打球は普段に比べて上がってませんし、勝負所で内の真っ直ぐとスプリッターに抑えられてます。まだ、外のスライダー狙いの指示を変えませんか?」
真矢に言われても、冬月は指示を変更する素振りを全く見せない。むしろ今までの展開は冬月にとっては順調だった。
(碇の特徴は全てのコースに全ての球種を投げ込める制球力だ。その配球に、打者が迷ってしまう事が何よりもいかん。何か一つ狙いを定めて、打者の迷いを無くすのが先決だ。)
冬月はベンチにかけてあるタオルを手に取り、汗を拭う。
(我々の打線のスイングスピードなら、スライダー狙いの状態から外の真っ直ぐを流す事もできるし、内側の真っ直ぐを強引に振り抜く事もできる。狙い通りのスライダーは言わずもがなだ。抑えるには内の真っ直ぐとスプリッターに頼る事になるだろうが、投げるのに細心の注意を要する内の真っ直ぐと、握力の要るスプリッターをピンチで多投するとなると、疲弊しない訳がない。必ず、崩れる時は来る。)
ジャグからスポーツドリンクを汲み、一気に飲み干した。
(後は、選手がこの作戦をどこまで信じて、徹底できるかだ。ここまでの逸機で芽生える疑念をどこまで払拭できるかだ。)
整備が終わったグランドに飛び出していく選手を見守り、冬月は息をついた。
(…試されているのは、私の信頼か)
ーーーーーーーーーーーーーー
バシッ!
高雄の真っ直ぐが威力十分に投げ込まれる。
打席の藤次はその威圧感に舌を巻いた。
(こいつ初回は全然打てる感じやったのに、どんどん球が良なってるやないか)
初回に満塁ホームランを打たれて以降、是礼先発の高雄は開き直ったのか、真っ直ぐでガンガン押してくるようになった。制球が甘い事もしばしばだが、それを投げている本人が気にしない。
重心が高く上半身主体の、やや力任せの投げ方だが、力任せな分ラグビー選手のような体のパワーが活きる。初回に健介のラッキーヒットを含めた3安打されて以降は、4回の先頭打者多摩にシングルヒットを許したのみ。四球は二つあるが、ネルフ打線を抑え込んでいる。
カン!
続いて真ん中高めに入ってきた真っ直ぐに藤次は手を出すも、バットが押し返されてファウルになる。球場のスピードガンは140キロを計測していた。
球持ちが悪くリリースが見やすい分、初戦の八潮第一・御園公也ほど速さは感じない。かといって、簡単に打てる球速ではない。
(真っ直ぐばっかりなんや…押されとったらアカンわ)
気持ちバットを短く持って、藤次は速球に備える。そうやって待たれていよ
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