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剣の丘に花は咲く 
第十章 イーヴァルディの勇者
第八話 エルフ
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かの正義の『味方』。
 わたしが救われることを望んでいないのに、それを無理矢理救うのは『正義の味方』ではない。
 だから、彼はわたしを救うことはできない。
 
 無言の士郎を前に、タバサもまたただ黙って顔を伏せたまま。
 顔は上げられない。
 顔を上げたら、きっと耐えられない。
 溢れてしまう。
 これ以上泣いてしまえば、彼は自分を救ってしまうかもしれないから。
 なにせ、氷の矢の雨が降る中、『女の子が泣いていた』から助けに飛び込むような人だ。
 これ以上……涙を見せるわけにはいかない。
 
 歯を食いしばり、顔を伏せるタバサの耳に、

「そう言えば、『正義の味方の定義』について、以前聞かれたことがあったな」

 士郎の言葉が触れた。

 「え?」と微かに声を漏らすタバサ。顔を上げないタバサに、しかし士郎は構うこともなく言葉を続ける。

「俺にとってそれは、『味方』であることだな」

 タバサは顔を下に向けたまま、上目遣いで士郎を見る。
 士郎は目を細め笑みを浮かべていた。

「みか、た?」

 反射的に口から溢れた言葉に、士郎は小さく顎を引くだけの頷きで応え、

「ああ。俺にとっての『正義の味方の定義』は―――」

 放たれた言葉は、しかし、



「―――そのくらいにしてもらおうか」 


 
 タバサの背後から聞こえてきた声によって遮られた。





 声が響いた瞬間、タバサはビクリと身体を大きく震わせ立ち尽くした。士郎はただ、細めた目を声が聞こえてきた方向に向ける。士郎の鋭い視線に引き釣り出されたように、星あかりを遮ることで出来たアーハンブラ城の影から一つの影が現れる。双月の光の下に出てきた人影は、異国のフードを被ったすらりとした身体を持つ男だった。
 振り向いたタバサがその姿を目に入れると、息を飲み、無意識のうちか、怯えたように震える腕を士郎に向かって伸ばし、

「タバサっ!」

 士郎の背後から伸ばされた褐色の腕が、タバサの手首を掴み引っ張った。予想外の感触と行動に、驚きの色に顔を染めたタバサの顔が、甘い香りと共に柔らかなものに包まれる。咄嗟に顔を上げたタバサの目に、何処かバツが悪い顔をしたキュルケの顔が映った。驚愕に身を固めたタバサの背中に両手を回して抱き上げたキュルケは、そのまま地面を強く蹴り後ろに下がる。そこには何時の間に現れたのか、ルイズやロングビルたちの姿があった。ギーシュやマリコルヌたちは、守るようにタバサを抱くキュルケの前に立つ。
 そんな様子を今までずっと黙って見ていたエルフ―――ビダーシャルは、キュルケたちの動きが止まったのを見計らったかのように口を開いた。

「わたしはエルフのビダーシャル。わたしは戦いを好まぬ。その娘を
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