第十章 イーヴァルディの勇者
第八話 エルフ
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」
手を差し出す士郎に、タバサは、
「なら、あなたはわたしを連れて帰ることはできない。わたしは、そんなこと望んでないのだから」
一歩後ずさり首を振る。
士郎を見上げ、震える顔で再度首を左右に振った。
「わたしは、わたしの意志でここにいる。それを無理矢理連れ帰ろうとするのなら、それはただの善意の押しつけでしかない」
キッと士郎を見やり、
「そんなのは『正義の味方』とは言えない」
断言する。
何時しか波打っていた青は静かな凪に入り、タバサは澄み切りすぎた蒼色の瞳を士郎に向ける。微かに震えていた身体は、今やピクリとも揺れていない。それは、士郎の見慣れた姿だった。あらゆるものを拒絶し、排除し、ただ一人立つその姿は、学院で一人でいる時のタバサ。
そして今、タバサは士郎を拒絶している。
自分は自分の意志でここにいると。
助けを求めていないのに助けに来られるのは迷惑だと。
そう、タバサは暗に言い含めていた。
タバサは黙り込んだ士郎の前、顔を伏せて地面を見る。
嘘では、ない。
自分が自分の意志でここに残るというのは嘘ではない。
今、この場にはあのエルフはいない。しかし、あのエルフは、自分と母親をここから逃がさないように命じられている。もし、自分と母がこの城から逃げようとすれば、必ずあのエルフが立ち塞がるだろう。部屋のドアに鍵を掛けていなかったのも、何時でも自分を捕まえることが出来る自信の現れからだ。あのエルフの力は未知数に過ぎ、例え七万の軍勢を退けた士郎であっても勝てる見込みは低い。千のゴブリンに勝てる男がいても、一匹の竜には負けてしまう。あの士郎であっても、氷嵐を軽く凌ぐエルフの相手は分が悪い。
―――彼が傷つくところは見たくない。
だから、タバサはここに残ることを決めた。
例え明日自分が死んでしまうのであっても、初めて好きになった人が傷つくところは見たくないから。
自分の心が死ぬと告げられた時、あれほど恐ろしく感じたのに、何故か、今はそんなに恐ろしく感じない。
ただ、酷く悲しいだけ。
でも、大丈夫。
最後の最後。
何年もの闕~り積もった雪が凍りつき、雪風荒れていた心に灯った炎。
それを抱いて死ねるのなら。
それは、幸せと言えるだろう。
だから、タバサは拒絶する。
士郎からの救いの手を拒絶する。
いらないと。
必要ないと。
わたしは望んでここにいると。
そう伝えれば、『正義の味方』である彼は諦めるしかない。
何故なら彼は『正義』の『味方』だから。
『正義』ではなく『味方』だから。
自身の『正義』を振るうものではなく、誰
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