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剣の丘に花は咲く 
第十章 イーヴァルディの勇者
第八話 エルフ
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 チラリと士郎がタバサを見ると、タバサの視線は自分の足元に向けられていた。
 身体の前に腕を組むと、士郎はタバサを真正面から見て、

「ああ、だからこれは俺の我侭だ」 
 
 ふっ、と小さく笑った。

「っ―――あ……」

 瞬間、ばっと顔を上げ士郎を見上げたタバサは、反射的に開いた口を何度かパクパクと閉じたり開けたりした後、ぎゅっと身体を縮めながら顔を伏せた。小さな身体を更に小さくしたタバサを見下ろす士郎は、組んでいた腕を外し、右手をタバサに差し出した。

「帰ろうタバサ」
「―――…………」

 顔を伏せたまま、タバサは士郎の誘いに無言で首を横に振る。士郎は手を差し出したまま、タバサに問う。

「帰れない理由があるのか?」
「…………」 

 問いに、タバサは無言で応える。
 押し黙るタバサに、士郎は一歩足を前に進める。
 ざっ、と地面を擦る音が二つ響く。
 士郎は前に、タバサが後ろに動いた音であった。互いの距離は変わらない。伏せて見えないタバサの顔の代わり、士郎は月明かりに照らされ淡く輝く青い髪を見る。

「タバ―――」
「―――だめ」

 名を呼びきる前に、タバサの拒絶の声が響く。僅かに顔を上げたタバサと士郎の視線が交じり合う。士郎はタバサの青い瞳の中に、拒絶の奥に潜む悲哀と恐怖の色を見抜き。そして同時に押し殺されたものも捉える。
 だから、士郎は前に出た。大きく足を前に出し、手をタバサに差し出す。

「いいや。駄目じゃない。言っただろ。これは俺の我侭だ。嫌だと言っても無理矢理にでも連れ帰るからな」
「っっ、だ、だめ……だ、め……」

 首を振り、タバサは後ずさり士郎から距離を取る。タバサが左右に首を振る度に、雫が飛び散り、月明かりを受けきらきらと輝く。
 次第に距離は詰まり、互いの距離は五メートルを切った。

「だ、めっ……お願い……帰って……はやく、かえって……わたしは……いいから」

 既に互いの顔をハッキリと視認できる距離にあった。タバサは潤み、波に揺れる海のように震える瞳で士郎を見上げ首を振る。

「もう……十分だから……わたしは……もう、だいじょうぶ、だから」
「何が大丈夫だ。残念ながら、泣きながら大丈夫だと言う奴を放っておけるほど、我慢強くないんでな」

 苦笑を向けて来る士郎に、タバサは揺れる目を細める。
 目尻から溢れ出たものが、頬を伝い地面に落ちた。

「それは、『正義の味方』、だから?」

 ピタリと足を止めた士郎を見上げ、タバサは問う。

「だから、わたしを助けようとするの?」

 タバサの問いに、士郎は、

「ああ」

 頷いた。

「そうだな。俺は『正義の味方』になりたい。だからタバサ。皆と一緒に学院に帰ろう
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