第十章 イーヴァルディの勇者
第八話 エルフ
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な。おかげでついついその顔をじっと見つめてしまって、視線に気付いたタバサが、ピザを持って部屋まで帰ってしまったんだよな。
その時のことを思い出して、口元に小さな笑みを浮かべた士郎が顔を上げた時のことだった。
士郎の目の前、
「―――っ!?」
そこには、
「た、バサ?」
驚愕に目を見開き立ち尽くすタバサの姿があった。
「な、んで?」
白晰の美貌を驚きに染めたタバサの呟きに、士郎は固まっていた思考を顔を小さく振ることで元に戻す。視線をタバサから引き剥がすと、士郎は視線を上下左右に移動させた後、手元のはしばみ草ピザへと向け、指を指し、
「あ〜……食べるか?」
タバサに問いかけた。
……明らかに士郎は混乱していた。
「え? あ? っえ?」
目を白黒させながら、士郎が指差すピザと士郎自身を交互に視線を移動させるタバサ。今まで見たことがないほど感情を、と言うよりも挙動をとるタバサの姿に、士郎は思わず小さくぷっ、と笑みを吹き出した。
え? え? と戸惑いを露わにするタバサだったが、口元を手で覆い、軽く身体をくの字折って笑う士郎の姿を見た途端、スッと目を細めて何時もの冷静な姿を取り戻してみせる。
じろりと眼鏡の奥から睨めつけてくるタバサの視線に、士郎は背筋を伸ばす。
「……なに?」
「いや、その、何だ。可愛いものだと思ってな」
「―――っな!?」
くくくっ、と拳で口元隠し、笑みを噛み殺しながら口にした士郎の言葉に、タバサはその雪のように白い頬を赤く染めた。
士郎とタバサとの距離は約七、八メートル程度。それは、星明かりで互いの顔が何とか見えるぎりぎりの距離であった。士郎とタバサは互いに距離を詰めることも離れることもなく、ただじっと見つめ合う。遠くからは、笛と太鼓の音が微かに聞こえてくる。風に混じり途切れ途切れに耳に入ってくる音が、一つ強く風が吹いた瞬間途絶えた。
「……何故、あなたがここに……いるの?」
ほんのり桜色に染めたままの頬を隠すように、顔を反らして士郎にタバサが問いかける。顔を横に向けながらも、タバサの視線は士郎に向けられていた。士郎は口元から離した手を自身の頭に置くと、軽く掻きながら顔を空に向ける。
「ふむ。実は約束を破って実家に帰った女の子がいてな。折角腕によりを掛けて料理を作ろうと思ってたんだが、主賓がいなければ用意した材料を無駄になってしまう。暫らく様子を見てたんだが、帰ってきそうになかったんで、その子を迎えに来たんだ。で、まぁ、その子には色々と世話になっててな、ついでだからとその子の母親も一緒に学園に招待しようと思ってここに、な」
「…………その子は、それを望んでいないかもしれないのに……?」
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