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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第六話 栄誉ある死か 恥辱の生か
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背を見せずに死んだ後で正義の英雄となるのは味方が生存したからだと、なぜ分らない。 死者は黙して語らず、死に損ないの老兵のみがすべてを語り継ぐ権利を得られるのだ。

「当然だ。此処で黙って戦死しても誰も得しない。
鎮台は壊滅し、村民は穀物を奪われ、女は犯される。
内地を守るものは一万人以上がここで骸になり、そしてそれで内地では更に人が死ぬ。
それなら村民を早期に逃し敵に利される前に村を破壊する方が効率的だ。
村人達にはいずれ来る被害を軽減させるのだと考えろ。
この時この瞬間、我らは今後の国防戦略の要所を担っている。
どうだ、少尉。たかが尉官・佐官である我らにとっては何とも名誉な事ではないか!」
 ――我ながらよくもまぁ、口が回るものだ。
自嘲の笑みを浮かべながら芝居がかった仕種で両手を広げた。
「そんな・・・効率的・・・なんて・・・」
理解はしているが納得出来ないのだろう漆原は途切れ途切れに言葉を紡ぎ、崩れ落ちるように座り込んだ。

「覚えておけ。何もしなかったら村民達がどうなるか。
村は破壊される結果は何も変わらない、だが村民を多少は助ける事は出来る。
我々が正面から戦い戦死する事は下らない自己満足だ。
ならば我々は虚像となるために無意味な誉れある死よりも実をとって恥辱に塗れて生きるしかない」
言い終わると大隊長も椅子に沈み込むようす腰掛けた。
「質問はないな。」
 旧友の限界の兆候をそれに見て取ったのか新城が皆を睥睨する。
「ならば解散だ。一刻後に真室に派遣する者を通達する。」


同日 午前第十三刻 独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊長天幕
独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊首席幕僚 新城直衛大尉


部隊の様子を見て回った首席幕僚が大隊長の天幕に入ると大隊長の発する陰鬱な空気が彼を迎えた。
 ――これでも、身内に甘い男だ、先の漆原の件が響いたか。
打算的な癖に この男が決めた境界を超えると途端にお人好しになる。
そうした意味では将家らしい価値観を持っているのかもしれない。
 ――こうなるだろうとは思っていたがどうしたものか。
  どう声をかけようか、と思案していると大隊長の方が先に声を発した。
「・・・新城大尉。君はどうだ。納得出来たのか、この作戦に。」 
――軍人として問うのか。いや、部下としてか。
予防線を張りながら問いかける旧友を、弱っているな、と診断しながら慎重に言葉を紡ぐ。
「僕が考えついた中では最善の策です。もちろんこの状況の中で、です。」
「そうか、重いな、隊長というのは。」
そう呟くと瞑目する。
「指揮官とはそうしたものだ。貴様とてわかっているだろうに好き好んで軍人になったのだろう、務めを果たせ」

「そうだな、俺の仕事は軍人として時間を稼ぎながら可能な限り皇国
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