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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第六話 栄誉ある死か 恥辱の生か
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新城が席を立つのを見送ると馬堂豊久大隊長は重いため息をついた。
 ――皆、荒れるだろうなぁ。だがやらないと俺が指揮する限りは全滅だ。


同日 午前第十一刻 独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊本部天幕 
独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊長 馬堂豊久少佐

「さて、解っていると思うが撤退は許可されない。
我々に与えられた命令は十日間の遅滞行動だ。
幸い増援と補給は来る、だがそれでも以前より弱体なのは避けられない。
諸君、正面から戦ったらどうなるかな?」
 ――別働隊も使うのだ。皆に構想を深く理解させる必要がある。
 内心鬱々としていても馬堂少佐は表面上は快活に構想の説明を行っていた。
 漆原少尉が答える。
「まともに戦闘をしたら恐らく二刻ももちません。」
 ここまでは計数ができれば誰でも分かる事である。
完全編成の〈帝国〉陸軍一個師団相手に消耗しきった大隊が会戦するなどありえない。
「そう、砲兵の増援が届き次第敵の渡河の妨害を行うがそれでも無理だ。二日も稼げれば万々歳だろう。」
息継ぎついでに黒茶に口をつけると新城が言葉を引き取った。
「しかし、諦める事は出来ない。
ならどうするか、詰まる所我らは根性を悪くして戦うしかない。」
 独特の偕謔味を込めてそういうと皆それぞれの反応を返した。
 西田は不安げな笑みを浮かべ、漆原は失笑し 妹尾は鼻白んだ様な顔で杉谷は瞑目して首を振り、兵藤は予想していた様ななんとも言えない表情、米山を始めとする兵站将校達は現実に負けた者達独特の苦みを湛えている。

「そう、我等が根性悪の首席幕僚殿が言う通り邪道の戦術を使うしかない。
極めて例外的な戦術の為、今回はそれを諸君に講義するとしよう。
――兵藤少尉!帝国軍の我等には不可能とも言える行軍能力の背景は何か?」
 大隊長の問いに兵藤少尉が背筋を伸ばして答える。
「はっ!帝国軍の行軍能力の背景にはその身の軽さにあります!
兵站集積所、輜重段列に重きを置かず敵地において各隊が自活する事で
その行軍能力を持たせる大きな要因となっております。
北領においても北府の糧秣庫を押さえられた為に帝国軍はその行軍能力を発揮しております!」

「八十点だな。細く補足すると自活を推奨する為に敵地での『愉しみ』――強姦・略奪を推奨する事もその要因の一つだ。
連中、我が軍の主力が潰走している今は馬肉をぶら下げられた猫の様に悦び勇んで戦果拡大の為に行軍している。」
 言葉を切って見回すと、新城以外は皆、不愉快さ、そして怒りに顔を歪めている。
 ――義憤はそれなり、か。もうひと押しで正当化の理屈をつけられるか?
 馬堂は口を動かしながらも部下達を分析していた。
「ならどうするか、話だけなら簡単だ。
そう、馬鹿な猫には目の前の馬肉(おたのしみ
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