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第二十二話 すれ違い
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「知っている……います。篠ノ之箒だ、です……」
自分の姿を見て固まっている紫苑は、勝手に道場を使っていることを咎めているのだ思い釈明しつつ自己紹介をする。しかし、一方の箒は素っ気なく返す。ぶっきら棒な物言いを修正して敬語に言い直そうとさえした。それはつまり、紫苑が年長であることを知っているのだろう。もっとも、これも既に一年生の間では周知となっているので不思議ではないのだが、箒の反応はそれだけでないように紫苑は感じていた。
箒はただ一言だけ告げると紫苑のことを視界から外し、道場の隅で黙々と鍛錬の準備をする。彼女は既に剣道部に所属しているのだが、部長の許可を得て普段はこうして主に自主練をしており、残ったほとんどの時間はクラス代表を決める模擬戦を控えた一夏の鍛錬と指導に当てていた。今まで紫苑が彼女らと会わなかったのは千冬があえて時間をずらしていたからだろう。
箒も一夏同様に近いうちに接触したい相手だった。むしろ、護衛対象としては束に頼まれている分紫苑にとっては一夏より上だ。場の空気は何故か良いものではないが、なんとか会話の糸口になればと彼女の姉である束のことを話題にしようとする。紫苑の後見人に束がなったことは幸か不幸か既に公になっているので、問題はないはずだった。
「あなたとは一度お話したかったんです。あなたのお姉さんにはお世話になっ……」
「知っていると言っている! それに……私にはあの人のことは関係ない!」
しかし、その言葉は彼女にはタブーだったのだ。紫苑の言葉を遮って箒は声を荒げる。優秀すぎる姉に悩まされる妹。紫苑は既にそのケースに触れていたはずなのに、気持ちが先走ってしまっていた。いや、何よりあれだけ束が想い、常にその身を案じていたのを身近にいた紫苑は知っている。にも拘わらず、話題を出しただけでここまで嫌悪感を露わにするとは夢にも思わなかったのだ。それに加えて、明らかに自分に対してもその感情が向けられているのを感じた。
「……なぜそんなことを? 彼女はあなたのことを常に心配して……」
「余計なお世話なんですよ……そもそもあの人のせいで私たち一家は滅茶苦茶に……」
束がISを発表したことが契機となり、篠ノ之家は一家離散の状態が続いている。箒自身も、束の妹ということで小学生のころから政府の重要人物保護プログラムにより各地を転々としてきた。束が失踪後は執拗な事情聴取と監視により、その精神をすり減らした。学園に入学したのも、強制されたからだ。その原因が束にあるとなれば、彼女のことを恨むようになっても仕方ないのかもしれないが……。
「……違いますね。あなたが束さんのことを避けているのはそんな理由じゃない……そうでしょ?」
「!? なにを言って……」
「あなたは束さんが……」
「黙れ!」
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