第一物語・後半-日来独立編-
第六十二章 覚醒せし宿り主《2》
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あることを告げた。
覚悟は出来ている。大丈夫だ、今の自分ならば出来ると、自身に勇気付けながら。
――“試練”を受けると。
●
空気が変わった。
まだ戦いは始まっていない。
セーランは感じた。竜神が来る気配を。
それは上から。空からだ。
急降下をし続け、垂直落下のまま落ちてくる。
天を見上げるようにセーランは顔を上げ、太陽の光に反射する一つの光を見た。
高く、空にあるが。光が急速に落ちて来ている。
見上げる程高くあったのが、ほんの数秒で地上に落ちてきた。
落下地点は奏鳴が甲板上。瞬間、激しい光と竜が一鳴きしたような音が放たれた。
光は奏鳴の目の前。船首を貫くかのように甲板に突き刺さり、爆発によって生み出されたような風によって光を吹き飛ばし姿を露にした。
光の正体。それは一本の刀だった。
柄は青く、刀身もうっすらと薄く水色が通っている。
鞘は無くそのまま、甲板に突き立てたように堂々とした雰囲気を放っている。
美しく、強力な力を携えた刀。
目の前にあるその刀を、しかし奏鳴は手に取らなかった。いや、手に取れなかったと言った方が正しいだろう。
柄を握る行為。それが“試練”なのだ。
単純な柄を握るという行為が、正式に竜神の宿り主となる条件だ。
握るのに何も代償が無いわけではない。
宿り主になるということは、宿らせる神の力を得るのと同じこと。そのため神は力を貸す代わりとして、一種の度胸試しを行う。
セーランが傀神の正式な宿り主となり力を得る際、彼は感情を一つ失った。
既に何かしらの感情が、セーランから消えてしまったのだ。
同じように奏鳴が今、度胸を試されている。
力を貸すに値する者なのかを。神から試されている。
「お前に竜神の力が扱えるならば使ってみせろ。神の力無しに私には勝てんぞ」
挑発の言葉を央信は掛けてきた。
天魔をまとい、奏鳴の前に立つ彼女もまた天魔の力を扱うために代償を払った。
この身を天魔に捧げる。
それが天魔の力を得る条件。
身を捧げるということは、何をされてもいいということ。
傷を付けられても、身体の部位を失っても、身体自体を支配されても文句は言えないということ。
だからか、彼女は強かった。
自身を捨てる覚悟と共に、守る存在が央信にはいた。
その点の違いこそ、央信と奏鳴との力量の差だ。
央信は意地でも守り通す強い信念を抱いている。そのために負けるわけにはいかないと。
勝つことこそに彼女は価値を見出だし、逆に負けることに価値を見出だせないでいた。
何時からか、央信は勝つことに執着していった。
自分でさえも気付かぬまま。
「昔のままではない。そうだろ……」
自分自身に語り掛ける奏鳴は、甲板
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