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乱世の確率事象改変
諦観の元に
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香様、公孫賛様が己が力のみで侵略を跳ね返せる可能性は……良くて三割……いえ、二割程度です」
「現場の情報が不足している今回、私達だけでは全てを判断出来ませんが……私の見解も同じです。公孫賛様の軍だけでは勝ちの目が薄いです」
 桃香はそれを聞いて尚も身体を震わせ始めた。息が荒く、胸に手を当てて呼吸をどうにか紡ごうと必死であった。そこに一つ、
「決断を下せ。俺達に命じろ。お前が何を為したいかを」
 無慈悲な、重く冷たい声が圧し掛かった。
 覚悟を違えるな。自身が望んだものはなんであったのか、それを思い出し、俺達に確固たるものとして示せ。
 そう、秋斗は告げていた。
 ビクリと跳ね、尚も震えつづけていた桃香であったが、ぎゅっと自らをその両腕で抱きしめ、口を引き結んで顔を上げる。
 強い光を宿した目の端に涙を浮かべ、慄く唇から彼女の答えが紡がれた。
「……わ、私達劉備軍は此度の幽州での戦に……救援を行わず、内を固めなさい。万事に対応し自国の民の全てを守りきれるように」
 命は下された。
 聞いた皆は口々に御意と応える。
「桃香様、今日の政務は私達に任せてご自身のお部屋で休んでいてください」
 吐き出しきった桃香は、朱里に促されて漸く、覚束ない足取りで軍議場を後にし、扉を閉じてすぐに走り去る音が聞こえた。
 後に残ったのは静寂、そして重苦しい空気。
 誰もが、己が主と一人の男の心境を考えて言葉を発せずにいた。
「朱里に聞きたい」
 目を瞑り、ただ沈黙を貫いていた秋斗は唐突に話を振った。
 いつもの快活さも、飄々とした軽さも無いその声には違和感しか無く、その場にいる誰もが普段の彼のモノでは無いと悟っていた。それでも誰も、彼に対して駆ける言葉を持ち合わせていなかった。
「袁術軍が攻めて来るまでどの程度の時間があると思う?」
「そうですね……未だに民の不平不満が多い地と聞きますし目立った徴兵等の動きも見られず、私達の情報をある程度知っていると考えて勝つべくして来るのならば……後一月は攻めてこなかったでしょう。
 しかし、今回の袁家内部での諍いを見ると……半月以内に来てもおかしくないかと」
 朱里が予測を話し、秋斗は少しだけ弱々しげに微笑み頷く。
「分かった。なら急いで準備しよう。向こうは袁家だ。どんな手でも使ってくると考えていいだろう。なら民の被害も最小限に抑える為に迅速さこそ求められる」
「お兄ちゃん……大丈夫なのか?」
 堪らず、鈴々は声を掛けた。目を合わせた秋斗はそのまま皆を一回り見回してから、すっと立ち上がった。
「心配ありがとな。大丈夫さ、覚悟は出来てた。俺よりも桃香の心配をしてやってくれ。出来れば今日の夜は誰か傍に居てやった方がいい」
 その言葉を聞いた愛紗は少し悩んだ後、
「秋斗殿……同じ想いを共有できる
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