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乱世の確率事象改変
高みに上らせるは鳳と月詠
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「秋斗殿とはここ最近、まともに話していませんでしたね」
「うん、ごめんな。なんか話しづらくて避けちまってた」
「私の方も避けてしまっていたので……すみません」
 愛紗は言葉の途中で俯いた。しゅんとする彼女は始めてみたので少し面喰ってしまう。
「……愛紗と俺はきっとどこか分かり合えない所があると思う。全部を分かり合うなんてのは……到底出来ない事だろう。俺には俺の基準線があるし、愛紗には愛紗の譲れないモノもある」
「そうですね。私はあなたの曖昧な所も、いい加減な態度も受け入れられません。きっとあなたは私の堅い所や、生真面目に過ぎる所を受け入れられないでしょう」
「クク、だな。真面目過ぎるのは苦手だ。ただ、愛紗のそういったブレないで真っ直ぐ意見をぶつけてくれる所を羨ましいとも思う。だからこそ俺は愛紗を尊敬しているし、絶対に嫌いにならない」
 膠着。愛紗は俺の最後の言葉に固まった。
 その表情は俺に嫌われているとばかり思っていた、と物語っていた。
「なんのことはないさ。言葉にしないと本心なんか伝わらない。俺は臆病過ぎた。嫌われるのが怖くて、少しでも誰かを傷つけるのが嫌だから逃げ回ってたんだ」
 影響を与えない為に、そんな事実も確かにある。だけどそれでも……もっと他にやり方があったかもしれないんだ。
 本当の所、ここ最近は嘘つきな自分の存在を知られるのが怖くて、責められるのが怖くて避けていたのが大きい。自分自身の浅はかさ、そして浅ましさに腹が立つ。
 そんな弱さからあの子を傷つけてばかりなんだ。
 俺をずっと支えてくれている一人の少女の泣き顔が頭に浮かび、胸にズキリと痛みが走った。俺はこれからあの子に何を返してあげられるんだろうか。
「ふふ、知っていますか? 後の一つは臆病では無くて優しさというんです」
 上品に微笑んで言い聞かせるように話す愛紗のおかげで、少し思考に晴れ間が覗く。紡がれた言葉は俺の心に甘く染み込んで行った。
「人を傷つけるのは誰でも怖いモノですよ。私だって誰かを傷つけるのは恐ろしい。でも、誰かがしっかりと意見を話さねばただの慣れ合いで終わってしまうでしょう。桃香様の作る空間は居心地が良く、誰もが安心できるモノですから」
 だから愛紗は進んで嫌われ役を引き受ける、そう言っているのだ。
 いつの時もそうだった。黄巾の時も、シ水関の後でも、洛陽の戦の後も彼女は真っ直ぐ自分の意見を曲げないで伝えてきた。そこから皆の意見を聞き、己が意見と違えば最善の方を取る。
 嫌われようとも、疎まれようとも汚れ役を引き受ける、そんな彼女は、
「……愛紗、優しいというのは愛紗のような人の事を言うんだろうよ。いつもありがとう」
 誰よりも優しい人ということだ。これはきっと母性に近い。甘い優しさでは無く厳しい優しさであり、それはもの凄
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