13話
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貴方を待っていた』
不意に、ラウネシアから発せられる感情が変わった。
反射的に身構える。しかし、ラウネシアから発せられるそれは、敵対的なものではない。むしろ、友好的な感情。しかし、今まで植物から感じた事がない感情だった。
果実のように甘く、炎のように熱く、酸素不足の根のようにとりとめもなく彷徨う、得体のしれない感情。
「ラウネシア?」
『カナメ。何故私が人の姿をしているか、わかりますか。生殖の為に、人と交わる必要があるからです。私達はそうやって、種を撒いてきた』
脳裡に届くラウネシアの言葉に、ある植物の名前が自然に浮かび上がった。
ハンマーオーキッド。ランの一種だが、花の形が蜂のメス姿をしているのだ。姿だけでなく、匂いも蜂のメスと酷似している為、オスはこの花に向かって抱きつき、交尾しようとする。結果的に哀れなオスは交尾に失敗し、花粉媒介に利用される形となる。
「……ラウネシアがいくら人間の女性の形をとったところで、動物的にメスであるわけではないです。ボクを媒介に花粉を受粉しようとしているならば――」
『私は、メスです。原型種には雌雄の区別が、あるのです。擬態の為に女の形をとっている、というわけではありません。そして、花粉受粉の為の擬態でもありません。文字通り、人の種を使って生殖を行うのです』
雌雄異株、というわけか。多くの植物は雄しべと雌しべを同一の株に持ち、自己受粉して繁殖する。しかし、オスとメスで分かれている木も少数として存在する。典型的な例としてイチョウはメスしか銀杏を実らさない。
ゆっくりとラウネシアの樹体を周り、彼女の前に立つ。ラウネシアの瞳には好意が浮かび、ボクに向かって真っ直ぐと注がれていた。
『カナメ、私はずっと待っていたのです。人が、あなたがこの森に迷い込んでくる事を』
「……よく、わかりません。人が迷い込む事を前提とした、その生殖戦略には穴があるのではないですか」
『いくつかの地点が結びつく場所が存在するのです。私達原型種は、そこに根を張り巡らせ、人が迷い込むのを待ち続けます。私はここに迷い人が来るのを予期し、根を巡らせました』
時空の歪みのようなものがある、ということなのだろうか。原型種にはそれを知覚する術がある、と。
「でも、人が来るとは限らないんじゃないですか? 例えば、外敵が――」
そこまで言って、気づく。ああ、そういうことなのか。
『ええ。だから、私達は外敵に備えてこのような森を築き上げるのです。亡蟲のように迷い込んだ外敵と戦う為に』
いくつかの世界が交じり合う地点。ここはそういう所なのだろう。そして、ラウネシアは来訪者を選択できない。
ボクが想像しているよりも危険な場所だ、と認識を改める。亡蟲を凌駕する脅威的な外敵が来訪すれば
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