第十章 イーヴァルディの勇者
第七話 矛盾が消えるとき
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『あなたが誰かを好きになった時よ』―――と。
瞼を上げ、視界に光が戻る。
最初に目に映ったのは、手に持った本のタイトル。
『イーヴァルディの勇者』
そのタイトルが刻まれた表紙を、そっと人差し指でなぞる。
幼かった頃わからなかったタイトルの意味。
何故タイトルは『イーヴァルディの勇者』ではなく『勇者イーヴァルディ』なのか。
その意味が、今は分かる。
『勇者』とは、イーヴァルディそのものを指すのではない。
少年イーヴァルディの心から生まれる衝動や決意といったあやふやな感情を纏めたものを、『勇者』という言葉で表していたのだ。
この物語で語られる少年は、きっと洞窟の暗闇や恐ろしい竜に感じる恐怖よりも強い何かがあったのだろう。
自分の身を危険に晒してでも、囚われの少女の救出に赴かせる何か。
それが何なのかは分からない。力を持ったことに対する義務感なのかもしれないし、竜に囚われた少女に対する恋心なのかもしれない。
母は言った。わたしがこの『イーヴァルディの勇者』というタイトルに感じていた疑問が解消される時は、わたしが誰かを好きになった時だと。
なら、わたしは誰かを好きになったのだろうか。
恐ろしい竜に立ち向かうための勇気を与えてくれる、誰かがいるのだろうか……。
日が落ちたことにより、炎の明かりが届かない天井を侵食する闇を見上げていたタバサの視界に、紅い残光が過ぎる。
気付けば、タバサの両手は自分の身体を抱きしめるように自分の身体に回っていた。
とある記憶が、部屋を照らす炎が揺れる度に蘇っていく。
蘇る記憶とともに身体に熱がこもる。
そんなに昔の記憶ではない。
ほんの十二、三日まえの記憶だ。
何時ものように、命令で、ある男の命を狙った。
知っている男だった。
初めて会ったのは、数ヶ月前。
最初の印象は、あまりいいものではなかった。
甘い、理想ばかりを語る男だと思った。
現実を知れば、直ぐに逃げ出すだろうと思っていた。
でも、違った。
彼は、違った。
何時も、何処でも彼は前にいた。
常に先頭に立ち、降りかかる魔法から、剣から、悪意から皆を守ってきた。
心と身体を傷つけながら、常に一人前に立っていた。
何時からか、彼の背中を追っていた。
学園を歩く時、食堂で食事を取る時、教室で授業を受けている時……彼の姿を探していた。
何故……なのかは分からない。
ただ、気付けば彼を見つめていた。
彼の姿を視界に収める度に、胸がざわついていた。
それが何なのか分からなかった。
そんな時、命令が下った。
その時には、彼の強さははっきりと分かっていた。
相手との実力差は明らか。どんな手段をとったとしても、怪我一
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