第十章 イーヴァルディの勇者
第七話 矛盾が消えるとき
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される。彼らの視線は大きな台車を引いて現れた青髪の少女と桃色のブロンドの髪を持つ少女に集まる。いや、正確にはその少女たちが引く台車に乗せられた料理に、であった。
台車の上にはたくさんの料理と酒が乗せてあり、二人の少女はそれを手に取ると早足で兵士たちの下にそれを持っていく。机に乗せられた料理は、直ぐに兵士たちの胃の中へと消えていき、同時に配られた酒を喉に流す。少女たちは次々に料理と酒を配るが、あっと言う間に料理と酒は消えていった。
次第に料理と酒を奪い合う喧騒があちこちから生まれ―――宴が始まった。
ふと、目を開けると、窓からは太陽の眩い輝きではなく、双月から注がれる柔らかな光りが差し込んでいた。ベッド脇には、眠りに落ちてしまう前、日が落ちた際に点けたローソクの炎が揺れている。
顔を上げてみると、視線の先には横になった母が小さく寝息を立てていた。何時の間にか寝てしまっていたと、片手に握った本をチラリと見たタバサは、母が眠るベッドに突っ伏すように倒れていた身体を起こした。微かに霞がかかる頭を軽く左右に振ることで晴らすと、最後に残った記憶を反芻する。
最後に覚えているのは、母に『イーヴァルディの勇者』を読んであげている途中、寝息が聞こえてきたところまで……どうやら自分はその寝息につられるように眠ってしまったようだと思いながら母に視線を向ける。
タバサの目が母に向けられると同時に、母の閉じた瞼がピクリと動いた。
ビクリとタバサの肩が震えた瞬間、母の瞼が開き、タバサと視線が交わる。
タバサの目が、咄嗟に手に持った『イーヴァルディの勇者』に向けられる。今の母は、シャルロットの人形か、『イーヴァルディの勇者』を読み聞かせなければ暴れだしてしまうからだ。暴れる前にタバサが人形か物語のどちらかを使おうとしたが、何時までも静かなことに気付き、ゆっくりと首を回し母を見ると、母は自分をじっと見つめたまま動かないでいた。反射的に浮かび上がるもしかしてという淡い希望を押さえ込みながら、タバサは母に呼びかける。
「かあ、さま」
呼びかけに、母は無言で応えた。何も言わず何の反応も見せずにただじっと黙って自分を見つめ続けるだけ。暫しの閨A母と見つめ合っていたタバサは、横目で鏡台に置かれた人形を見ると、小さく顎を引き顔を伏せた。
「母さま。今日もシャルロットがご本を読んでさしあげますわ」
手元に引き寄せた『イーヴァルディの勇者』に視線を落とし、ページを捲ると、タバサは朗読を始めた。
イーヴァルディは竜の住む洞窟までやってきました。従者や仲間たちは、入口で怯え始めました。漁師の一人が、イーヴァルディに言いました。
『引き返そう。竜を起こしたら、俺たちみんな死んでしまうぞ。お前は
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