第十章 イーヴァルディの勇者
第七話 矛盾が消えるとき
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との提案をミスコール男爵は切り捨てたのだ。
そのミスコール男爵は、今は中庭にわざわざ兵士に士官室から持ってこさせた豪華な椅子に腰掛けていた。
「しかし、珍しい旅芸人だな。芸と一緒に料理を出すとは。まあ、汚らしい旅芸人のことだ。大したものじゃな……ん?」
豪奢な椅子の背もたれに寄りかかっていたミスコール男爵は、不意に鼻をヒクつかせるとガバリと身体を起こした。
「な、何だこの匂いは? パンとチーズと……甘辛い……トマト? ん? こっちは肉の焼ける匂い。だが、これは何だ? 牛? いや、豚……か? いや、違うな……何だこれは?」
辺りに漂う煙と共に香る様々な匂いに、今まで騒いでいた兵士たちも黙り込み鼻を鳴らし出す。先程までざわついて騒がしかった中庭には、鼻を鳴らす音と喉が鳴る音が響き渡る。
ゴロゴロぎゅるぎゅると辺りに腹の虫の声が混じり始めた頃、松明を持った痩せた少年と小太りの少年が現れた。少年が現れた瞬間、中庭の兵士たちの視線が一斉に集中し、直ぐに舌打ちと共に溜め息が合唱する。
それは女が現れなかったためか、それともまた別の理由か……。
松明を持った少年二人は、用意されたかがり火のやぐらに手に持った松明を投げ込むと、もう一つの手に下げていた楽器を構えた。
痩せた少年―――ギーシュは笛を、小太りの少年―――マリコルヌは小さな太鼓を構え、互いに目を合わせる。そして、兵士たちの声が一瞬静まった瞬間を狙いギーシュが口を付けた笛から静かな音が鳴り響いた。それに合わせ、マリコルヌが太鼓を叩く。
星が満ち始めた夜の空の下、静かな曲が響き始めた。
旅芸人と聞き、激しい雑な曲だと考えていた兵士たちから、戸惑いの声と共に感嘆の声が漏れる。普段兵士たちが耳にするものとは何処か違い、何かしら気品のようなものが感じられる緩やかな旋律に、兵士たちは不満の声をあげようとしていた口を閉じ聞き入り始めた。
すると、曲に導かれるように、かがり火とかがり火の間に出来た暗闇の中から、二人の踊り子が踊りながら姿を現した。
並んで現れた踊り子の一人は、闇を照らすかがり火の炎をよりも紅い髪をもつ、グラマラスな褐色の肢体を持った女。もう一人は夜の闇に染まり深みを増した緑の髪を揺らし、熟した女の魅力が滴る身体を、何処か気品を湛えながらも妖艶に揺らす女。
二人の踊り子は同じような深い切れ込みが入った薄いネグリジェのような服を着ており、不規則な炎の明かりに照らされる度に、その奥が透けて見え。足を、手を大きく動かす度に、深く切り込まれたスリットから、汗に濡れ光る白と黒の肌が見え隠れする。
妖艶に、誘うように、二人の女は踊り続ける。
兵士たちの視線が食い入るようにキュルケたちに集まっていく。
と、不意にその視線のいくつかが踊り子から外
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