Introduction
第十六話 落日
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軽い気持ちで、負ける気など微塵もなかった。しかしその認識は覆される。結果的には勝ち、余裕を見せるようには振る舞っていたものの心中はとても平静ではいられなかった。しかしそれは決して負の感情ではない。初めて、同年代で対等に付き合うことが出来る相手が現れたことに対する歓びだった。
楯無は、その優秀さ故に友人といえる存在は少なかった。もちろん彼女は人付き合いがよく、多くの人に慕われている。一種のカリスマ性から、同性異性に関わらずに人を惹きつける。しかし、それは相手から一方的に受けるものであって、彼女が真に友人と呼べる対象は多くはなかった。自身が暗部に所属しているということに引け目を感じたことはないが、相手を巻き込むことになる可能性から踏み込むつもりがないのも事実だ。
しかし、紫音と関わってからそれが変わった。周りには自然と人が集まる。それは今までと変わらないようで、何かが違う。紫音自身は楯無の周りに人が集まっているのだと思っていたが、実際には紫音の周りに、いや二人の周りに人が集まっていたのだ。その違和感に最初は戸惑いつつも、楯無は今までより自然に周りと接することが出来る時間が増えていった。
やがて、楯無は紫音の、紫苑の正体を知ることになる。しかしそれは既に彼女にとって些細なことだった。もともと何かを隠していたことは承知の上。その存在を認めていた以上、それが紫音という名前であれ紫苑という名前であれ、女であれ男であれ気にならなかった。
しかし正体を知るに至る過程で、楯無は紫苑の中にある闇を知ることになる。その根本的なものまではわからなかったが、幼いころから更識という裏の世界で生きてきた自分にも似たような経験はある。しかし、彼が抱えるものはそれよりも遥かに深い闇に思えた。
力になりたい、自然にそう思えた。らしくない、と思いつつも楯無はその思いを素直に受け入れる。
紫苑に対するその感情は、親友たりえると感じていた紫音という少女へのそれの延長線上である、と彼女は理解している。決して恋愛感情ではない、今はまだ……。
テレビの内容などほとんど頭に入ってこないほどに物思いに耽っていた楯無に突如連絡が入る。それは更識専用の通信。つまり、本家からだった。
「なんですって!?」
驚愕の声をあげつつも一言二言やり取りの後、すぐに楯無は部屋を飛び出した。その表情は先ほどとは打って変わり、血の気を失ったように青ざめている。
『つい先日、IS学園の生徒さんがこのお店で水着を買っていたということで話題になっています!』
つけっ放しのテレビからは変わらず元気な声が流れてくる。
楯無も、先ほどまではこんな日常が変わらないと思っていた。
『ここで予定を変更して臨時ニュースをお伝えします。先ほど、国内有数の軍需企業でも
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