夕焼けは朱を深く刻む
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おり、その事から夕に対してはあまり酷い対応はしない。
同時に、その事を理解していた沮授は無理を押して袁家上層部に掛け合い、自身と同格かそれ以上であるとの言葉を伝え、夕を代わりに筆頭軍師としての座に推挙した。
袁家上層部はそれを聞き入れたが、交換条件として袁紹の管理と監視を命じた。
泥沼のような状況を抜けて、腐敗した泥を踏み抜いて彼女達の今がある。
夕は悔いていた。
孤児である自分を拾わなければ、心労も少しは減ったのではないか、そんな思い故に。
だがそれを伝えるのは沮授を傷つけると分かっているのでしない。
だからこそ、沈む気分をそのままに無理やり笑顔を張り付けて頷き続けた。
「夕、あなたには何度も言っているけど、自分の為に生きなさいね。私がどうなろうと、あなたにはあなたの人生があるのだから」
心を読んだかのような沮授の言葉に夕は目を瞑り、力強い瞳を合わせて告げる。
「ん、大丈夫。私は私の為に生きている。欲張りだから全部が欲しいだけ。だから安心して見てて。世界を変えてみせるから」
奇しくも、語られたのは彼女の想う男と同じ言葉。何の因果か、彼女もまた、世界を変えたいと願った。
ふっと微笑んだ沮授はゆっくりと震える腕を上げ、夕の頭を撫で始める。
目を細めて、くすぐったそうに受け入れる夕は、今の幸せな時間をただ噛みしめていた。
†
仕事とはよく嘘をついたモノである。
明は苛立ちささくれ立った心をそのままに一人の男の元を訪ねていた。
「おいおい。珍しいじゃねぇか。お前が俺んとこに来るなんてよぉ」
「あぁ? このクズが、欲しか頭に無いお前の監視に来たんだよ。どうせまた夕とあの人の時間を邪魔しようとか考えてたのは分かってんだ」
「クカカ、いつもの猫被った口調はどうしたぁ? そんなんじゃ田豊の奴に嫌われちまうんじゃねぇの?」
互いに、口汚く言い合う二人は普段の作った自分の皮をかなぐり捨てていた。
憎らしげに一つ舌打ち、明は郭図の部屋の扉に背を預けて睨みつける。その眼の奥に光る殺意も、憎悪も全てぶつけて。
「あんたにお綺麗な言葉なんか使う気はないね。それに夕はあたしの素くらい知ってるから嫌わないし」
「はいはい、ごちそうさん。百合百合しいのは勘弁してくれよなぁ。ただでさえ顔良や文醜で見飽きてんだ」
どっかと執務椅子に腰を降ろし、やれやれと言うように肩を一つ竦めてから、郭図は顔を歪めた。
「別にもう沮授如きに関わる気はねぇよ。田豊の発言力も下げられたし用済みだ」
心底興味ないと、郭図は言い切る。もう筆頭軍師となったその男にとってはどうでもいい存在なのだ。
夕を縛る為のエサであり、また目の前で今にも手を掛けようとしている明に対する抑止力として生かしているだけ。
疎ましい
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