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虹との約束
第一部
第二章
Good bye

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 そして遂に、別れの日が来た。
「行くんだよね。」
祐二は言った。別に聞いたわけではない。この一ヶ月間、祐二は真里と、ずっとその答を確認し合ってきたのだから。
「うん。」
それは二人の、最後の決断の儀式だった。そして、その先に別れの言葉があることも、祐二は知っていた。
 さよなら、なんて、哀しい言葉じゃなしに、君に、この言葉を贈ろう―
「…ありがとう。」
祐二は、そっと真里の瞳を見つめた。涙を必死で堪えているのがわかった。だって、今泣いてしまったら、きっと、別れの悲しみに、負けてしまうだろうから。
 真里との、最後の約束。それは、泣かないで、微笑み合って別れること。そして…
「離れても、ずっと一緒だよね?」
真里は掠れ声で聞いた。
「何を言ってるんだ。当たり前じゃないか。」
祐二は、真里の手を取って、深呼吸をした。そよ風が、そっと二人の髪をなびかせた。見上げれば、そこにはどこまでも青い空―
 真里の手は、温かかった。
「僕、待ってるから。」
祐二は言った。
「え…」
「ずっとここで、君を待ってる。約束を果たす日まで。」
祐二は、真里を優しく抱きしめた。愛を、教えてくれた人だった。信じることを、教えてくれた人だった。優しさを、教えてくれた人だった。
 そして、最も愛した人だった。
「うん。」
二人は、最後のキスを交わした。
 バスがやってきた。二人は手をつないで、昇降口に立った。
「…それじゃ。」
「うん、またね。」
短く言葉を交わすと、真里は大きな鞄を持って、乗客の中に消えた。
 涙と戦っているうちに、バスが動き始めた。
 窓から、手を振る真里が見える。涙でぼやける目をこらして、バスを追いかける。そして、祐二は大きく手を振る。笑顔を作ろうとするのに、なぜか口元がゆがんでしまう。
 その時だった。一人の少年が、道ばたで歓声をあげているのが聞こえた。何かと思って、二人は空を見た。
 そこには、虹が架かっていた。思えば、昨日から降り続けた雨が、やっと止んだのだった。それは、大自然が二人に贈った、最後の贈り物だった。
「ありがとう…」
祐二は言った。
「ありがとう…」
バスの中で、真里も同じ言葉を言った。いい言葉だな、と思った。
 春の香りの青空には、誓いの虹が、まぶしいくらいに輝いていた。

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