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虹との約束
第一部
第一章
告白
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 七月七日、七夕の日。
 塾帰り、祐二は土手に向かった。少し落ち着けるかもしれないと思ったからだ。
 そっと草原に腰を下ろす。途端、頭上に星空が広がり、そよ風が頬を撫でた。
 気持ちいいな―
 七夕。都会だというのに、なぜか星空が見える。思い起こせば、見ようと思って星空を見たのは久しぶりだった。
 都会では星空が見えないと言うけれど、本当の原因はきらめく光ではなく、星空をも見ようとしない疲弊した心なのではないだろうか。
 天の川。そういえば小さいころ、短冊に、必死で願い事を書いたっけ…
 今、願い事を書くとしたら、自分は何を書くだろう。
 そんなことを考えていた時だった。
「井原君?」
後ろで聞き慣れた声がした。振り向いて祐二は仰天した。真里だった。
「原崎!ど、どうしてこんなとこにいるんだよ。」
「塾帰りに商店街で見つけてさ。こっそり追っかけてみた。」
真里は微笑んだ。見れば、自転車が向こうに立てかけてあった。商店街とこの河川敷。それなりに距離があるが、自転車に乗っていれば、祐二を尾行することなど訳ないはずだった。
「な…お…驚いた…凄いなお前。」
なぜ?と聞こうとして躊躇し、言葉を切り替えた。理由を尋ねる必要などなかった。周りの目はあるものの、ついつい会ってしまう真里の気持ちを、祐二は解していた。彼もまた、そうだったからだ。
「えへへ…隣いい?」
真里が尋ねられ、ドキドキしながら頷いた。夜、近くで彼女を見るのは初めてだった。河川敷に座る彼女は、祐二の目に、独りぼっちのお姫様のように映った。
「…」
二人はしばらく、眼前の自然に見入っていた。きらきらと光る河面は、祐二の高揚を増大させた。真里の小さな肩を見ると、いつも強い彼女も、女の子なんだな、と思ってしまう。
「きれいだね。」
星空を見て、つぶやいてみた。言いたいことはたくさんあるのに、それはもやもやと形をもたないまま、喉の奥で止まっていた。
「うん。」
真里も頷いてくれた。嬉しい。たったこれだけのやりとりなのに、どうして彼女とだとこんなにも幸せになれるのだろう。
「あ、このあいだはごめん。」
やっと形になったことを、細々と口に出した。祐二は怖かった。真里のメールでの、“友達”という言葉、そして、それ以下にもなりかねない可能性が。
「え?」
彼女は首をかしげた。
「い、いや。掃除のとき、みんなの誤解、不快だったかなって。」
「ああ。別にいいよ。それにあれ、井原君のせいじゃないし。井原君の方こそ恥ずかしかったんじゃない?」
聞き返されて、戸惑う。
「い、いや…僕は大丈夫だよ。むしろ…っていや、そうじゃなくて…」
口ごもってしまった。真里がクスクスと笑った。
「ふふ…あ、そういえば今日七夕だね。」
星空を見て彼女はそう言った。星空を見て考える
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