暁 〜小説投稿サイト〜
虹との約束
第一部
第一章
体育祭
[1/4]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
 時は過ぎて、五月になった。
 億劫な体育祭の練習が始まった。
 これは悲運というものだろうか。祐二と真里は違う組だった。全校が四組に別れるので、考えて見ればほぼ当然のことだった。だが、優勝杯は一つだった。
 けれど、祐二は手を抜くつもりなどなかった。いくら彼女が違う組でも、共に練習し、勝利を狙う仲間達に対して、それはあまりにも無礼なことだからだ。それに加えて、不正に与えた勝利など、真里は喜ぶはずがなかった。それは、一ヶ月間同じクラスで過ごしてきた、祐二の直感だった。
 いよいよ、最初の練習日が訪れた。
「さて、もう体育祭まで一ヶ月を切った。授業も体育祭練習に変わる。」
体育の先生である坂原が厳格な口調で言った。いつもは温厚なのに、口調がはきはきしていて違和感があった。
 なぜか、祐二は知っていた。校庭の日陰で、授業がない先生が練習を見ているのだ。体育祭練習とはそういうものだ。そうして、涼しげな場所から罵声を浴びせてくるのだ。
 一つの行事を一ヶ月で完成させる以上、彼らが緊迫し、厳しくなるのは当然であると思った。だが、繊細で、且つ不安定な反抗期の精神を持つ祐二達にとって、それは苛立ちに過ぎなかった。楽しいバスケ試合が、一瞬のうちに軍隊の訓練のように豹変するのだ。
 そうして、いよいよ行進練習が始まった。背の順に並べだの、幅はこれくらいにしろだの、果てしなく是正が繰り返された。天気は快晴。春の涼しさはもうぽかぽかした陽気へと変わっていった。足を振り上げ、入れ替え、列を整え・・・くだらないことなのに、いつしか祐二の額には汗が滲み始めていた。
 その時だった。
 ツッ
 舌打ちの音がした。それはよくあることだったが、最大の問題は、近くに先生がいたことだった。
「おい。今誰か舌打ちしたろ。誰だよ。」
坂原先生が祐二を含む赤組を睨み付ける。雰囲気が凍り付いた。祐二は後方を睨んだ。明らかに後ろから聞こえた。たぶん、長浦だろう。ちょっと荒れた奴だった。
「ふざけてんなよ。お前らは一年生にウチの体育祭を見せなきゃいけないんだからな。」
先生がそう言うと、また行進が再開された。とりあえずほっとした。いくら温厚とはいえ、坂原先生はキレると怖いことで有名だった。
 祐二は腕時計を見た。装着は禁止されていたが、祐二はそれを付けていると、束縛から逃れているような気分になって落ち着けた。いつのまにか時間が経って、あと十分になっていた。四十分間も行進練習をしていると思うと、気が滅入った。入れ替えや配置の設定のために、ほとんどの時間が荒怠なものだったが、だからといってその時間が祐二達の気を晴らすわけではなかった。
 空を見ると、そこには青空がある。いつかの雨が嘘のようだった。
 暑いな…拷問だろ…
 祐二は心の中でつぶやいた。先ほど舌打ちをした生徒は
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ