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虹との約束
第一部
第一章
雨上がりの朝
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 あの雨の日の翌日、祐二はやはりぼんやりと登校した。曇っていた空は嘘のように晴れ渡り、澄み切った青空が中学を包んでいた。春の温かさが冬を払いのけ、桜の木々にも新たな緑が芽生え始めていた。
 眠気が取れない身体を懸命に動かして教室に入ったが、次の瞬間、祐二は完全に目を冷ますこととなった。
「あ、井原君。」
真里が祐二のところに来たのだ。朝早いので、まだ教室には数名しか生徒がいない。真里はあまり登校が早い方ではなかったのに、今朝は早く来ていた。
「おお。おはよう。早いね。」
さすが朝なだけあって、また、昨日の反省の影響もあり、祐二はかなり安定した状態で会話に臨むことができた。それでも、目を合わせるには至らなかった。
「あ、うん。何となく早く来ちゃったから。」
嘘であるとわかった。まだ誰だか覚えていないが、真里は必ず誰かと一緒に、遅めに登校していた。それが今日に限ってこんなに早かった理由は、傘以外に考えられなかった。
 真里は優しく、折りたたみ傘を祐二に手渡した。祐二が使う前よりきれいになっている。まるで新品のようだ。
「これ、ありがとう。助かった。」
「お、おう。また何かあったら。」
そう言って傘を受け取る。昨日より傘が軽いような気がした。
「あと、さ。」
真里が改めて口を開いたので、思わず首をかしげた。会話が終わると思っていたため、当惑してしまった。その当惑も尋常ではなかった。祐二は、自分にとって彼女が特別な存在であることを改めて実感した。
「相合い傘で驚かせちゃってたら、ごめん。」
真里が頭を下げてきたので、驚いて反射的に祐二も頭を下げた。突然謝られるとは思いもしなかった。
「い、いや、その・・・」
言葉が出なかった。何とも反応がしづらかった。
「別に口ごもらなくてもいいよ。走っていっちゃったのって、私のせいだよね?」
彼女の問いに、どう答えようかと迷ってしまう。
「い、いや。小さい傘だから、気を遣わせちゃったかな、と思って。」
こういうときもっと礼儀正しい答え方があるのだろうが、哀しいかな、祐二はそれを知らなかった。
「そ、そんなことないよ。和やかでよかったよ。井原君との相合い傘。」
彼女が微笑む。予想外の言葉に戸惑い、平衡感覚を失いそうになる。何とか返事をしようとして、余計口ごもってしまった。
「い、いや。」
「ははは、なに照れてるの。冗談だよ。冗談。」
困惑に満たされた空気をかき消そうと、真里は小さく笑った。
 そうして自分の席に戻ろうとした真里に、祐二はいつのまにか声を掛けていた。
「原崎。」
一瞬の間があり、彼女が振り向く。
「あ…普通に、井原って呼び捨てでいいから…うん。」
何を言おうとしていたのか自分でもわからなかった。
「え…うん。わかった。」
彼女は頷くとまた歩いて行く。

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