A's編
第三十一話 裏 前 (グレアム、クロノ)
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ギル・グレアムは、これが夢だと自覚していた。
この夢は決まってグレアムの罪をまざまざと見せつけてくる。
夢の空間の中、暗い闇が支配する空間。そこにグレアムは立っている。周りには何もない。いや、ただ一点だけ、グレアムから少々離れた場所にポツンと人影が見えた。
その人影は、グレアムが直接見た記憶はほとんどない姿。だが、一方的によく知っている姿だ。
ショートカットの茶色の髪をヘアピンでまとめ、大柄のグレアムの半分ぐらいしかない少女。その姿は、グレアムの罪そのものである。
目を逸らしたい。だが、逸らせない。逸らすことはできない。直視することだけがグレアムにとっての贖罪だった。
仕方ない、仕方ない、と心の中で何度言い訳しただろう。なぜ、彼女のような少女が闇の書の主なのだろうか、と何度世界を呪っただろうか。
グレアムが見つけた主が、極悪人であればよかった。老い先短い老人であればよかった。もしも、そうであるならば、これほどまでの罪悪感を感じることはなかっただろうから。
もしも、代われるものならば代わってやりたい。しかし、それは不可能だ。
だから、グレアムは悪魔のささやきに応えた、応えてしまった瞬間から覚悟していたのだ。もっとも、覚悟しただけですべてを跳ね除けられるほど人間強くないものだ。
彼女が―――今回の闇の書の主である八神はやてがゆっくりと近づいてくる。その表情は俯いていてわからない。いや、これがグレアムの夢だとしたら、逆だ。わからないのではない、知りたくないのだ。
呪われることを覚悟している、怒りを抱かれることを覚悟している、だが、それでも直接むけられたくないというのが人の本能だろう。夢という空間だからこそ、それが如実に表れている。それでも、彼女の姿がグレアムの視界から消えないのは、グレアムの覚悟の表れだろう。
やがて、八神はやてはグレアムの一歩手前まで近づいてきて、その歩みを止めた。永遠ともいえるような時間が経った後、彼女は今まで見せていなかった顔を上げてグレアムを真正面から見つめる。
「なぁ、なんで私がこんな目にあうんや?」
その瞳は、悲しみの涙で濡れていた。
◇ ◇ ◇
ギル・グレアムは目が覚めるのを自覚した。
ゆっくりと開いた瞼の向こう側に見えるのは、室内を照らす明かりだ。もっとも、グレアムの記憶が正しければ、眠る前に明かりはすべて消したはずなので、誰かがつけたと考えるべきだろう。その誰かを考える必要はない。この部屋にグレアムの許可なく入れるのは、自分を含めれば三人しかいないのだから。
「お父様、目が覚めましたか?」
「ああ」
そう答えながら、グレアムは体を起こす。
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