A's編
第三十一話 裏 前 (グレアム、クロノ)
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グレアムを父と呼んだのは、セミロングの茶色の髪の毛を持つお嬢様のような雰囲気を持った女性だ。その傍には、双子のように顔立ちがそっくりな、ただし髪の毛はショートにした女性が立っていた。
お父様と呼ぶ彼女たちだが、グレアムの娘というわけではない。なにより、娘とするなら、彼女たちには人間には決してありえないものがついている。それは、頭に生えている一対の猫耳だ。コスプレのために着けるカチューシャのようなものではなく天然ものだ。
ならば、彼女たち―――リーゼアリアとリーゼロッテとは、グレアムにとっての何なのか。答えは、使い魔だ。グレアムの魔導師としての使い魔としての存在。それが、彼女たちだった。
二人いるのは、お嬢様のような雰囲気を持ったリーゼアリアが魔法に秀で、リーゼアリアが格闘術に秀でるという役割分担をしているからだ。通常ならば、一体の使い魔と行動を共にするだけで魔導師として現場で働ける人材は稀だというのに、グレアムは二体もの使い魔を伴いながら、現場でも獅子奮迅の働きをする。それが管理局で英雄と呼ばれる男の実力だった。
「あれ? お父様、なんか寝てた割にはすっきりしてなさそうだけど………」
どこか不思議そうな表情でリーゼロッテが小首を傾げながら問う。
リーゼロッテの見立てはある意味正しくて、ある意味間違っていた。
確かに寝る前よりも体力は回復している。魔力も漲っており、このまま現場に出ても問題ないほどだ。だが、体は好調であっても心はそうはいかない。少女一人の人生と命を犠牲にした作戦。それだけで、グレアムにかかる心労は相当なものだ。しかし、10年前の後悔と二度と繰り返してはいけないという想いが、この作戦へとある種の狂気をもって駆り立てていた。
その裏には、過去の命を犠牲にしてしまった後悔から、自分たちがやらなければならない、という想いもあるのかもしれない。
もしも、グレアムがこの作戦を立てなかったとしても結論は同じだろう。闇の書の主はある種の自滅をもって命を散らす。ならば―――、そう考えた部分もないともいえない。
そして、それらのグレアムの想いと後悔を乗せた作戦は現在も順調に進んでおり、現状では最終段階に来ていた。
「いや、大丈夫だ。それよりも、お前たちがここに来たということは……」
「そうです。お父様、舞台の準備は整いましたわ」
腕を組んで澄ました表情で告げるリーゼアリアにグレアムは、そうか、と一言答えた。
彼女が告げた舞台―――それは、この『闇の書封印』作戦が最終段階に至ったことを告げていた。
ここから演じられるのは、一人の少女を犠牲にした悲劇と一人の英雄を生み出す英雄譚だ。脚本と監督はギル・グレアム。役者は、グレアムが誇る愛娘、リーゼアリアとリ
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