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誰が為に球は飛ぶ
焦がれる夏
拾玖 互いにしぶとく
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を握りしめて、祈った。


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その声援は、ネルフナインにまで届いていた。
マウンドに集まった内野陣全員が、そちらを向く。見知った顔のクラスメートや、そうでない中等部の生徒も、皆声を張り上げていた。

「…どうやら、まだ皆さん期待してくれてるみたいだな」

内野陣唯一の三年生、多摩がこそばゆそうにはにかむ。

「これは、勝つしかないですね」

メガネの位置を直す健介の、レンズの奥の目が光る。

「ランナー二塁、前に打球しっかり止めましょう」

サードの敬太が、ジャガイモみたいな顔に笑みを浮かべた。

「よっしゃ皆さん、ここ抑えましょう!」

青葉の一言に全員が頷き、マウンド上の輪が解かれる。真司は空を見上げて、大きく深呼吸した。



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「「「(さぁーいきましょー!)
さぁーいきましょーー!!
(さぁーいきましょー!)
さぁーいきましょーー!!
(最強一高!)
最強一高!!
(常勝一高!)
常勝一高!!」」」

八潮第一の応援席が「さぁいきましょう」の掛け声に揺れる。打席には6番の奥山。
2年生の、三拍子揃った好選手だ。

間が空いてからの初球を狙い、フルスイングするも、外低めにギリギリ決まるスライダーに空振りした。

(ちぇっ、ここに来てもコントロールは乱れやがらねぇ)

マウンド上でセットポジションで構える真司は、相変わらず穏やかな菩薩顏を保っている。
それが奥山にはかなり気に食わない。

力みなく、流れるようなフォームから二球目が放たれる。さっきとは真逆の、インコースの真っ直ぐ。これにも奥山は手を出すが、手元でスッと食い込む。バットの根っこに当たったファウルとなる。

(追い込まれちまった)

痺れる右手を振りながら、奥山は舌打ちした。
この癖球に中々対応できない。少し怠い体では、この微妙な変化が気になってしまう。

(この程度、疲れてようが打てなくちゃ話にならねえ。俺たちは全国制覇が目標なんだ)

三球目は、何と真ん中に入ってきた。
絶好球。このコントロールミスを待っていたとばかりに、猛然とフルスイングする。

フルスイングしてしまった時点で、勝負は決まった。そのボールはストン、と手元で落下し、奥山のバットはその軌道を捉える事なく回った。

「ストライク!」

審判の手が上がり、少し遅れてバッターアウトの声が響く。ショートバウンドした真ん中低めのスプリッターを薫がキッチリ腰を落として捕球し、奥山にタッチした。


「薫君!ナイスキャッチ!」

グラブを右手でパン、と叩き、真司はベンチへと帰る。薫は真司に、親指を立てて微笑んだ。


「…攻め切れなかったな
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