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誰が為に球は飛ぶ
焦がれる夏
拾漆 口火
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ファーストを守る吾妻があっさり盗塁を許した佐々木をどやしつける。
佐々木は、怯えた様子を見せてその叱咤に頷いた。

(いや…確かに不用意だったが、それにしても速かったぞあいつ…)

捕手の馬場は、手応え十分の送球でも刺せなかった青葉に驚いている。


(…はぁー助かった。ちょっと調子が良すぎたな。)

健介と同じくらい胸を撫で下ろしている日向は、サインをバントに切り替える。
健介はこれを確実に決め、一死三塁。
ネルフ学園のクリーンアップの前に、いきなりチャンスが回ってきた。


ーーーーーーーーーーーー

「ここ先制すると、大きいわよ。ジャイアント・キリングには先制が不可欠。」

バックネット裏でパソコンを打ち込みながら、律子がつぶやく。その前にはビデオカメラ。
この試合も録画し、データを取るつもりである。
"次の試合"の為に。

「いいよいいよー!!」
「結構野球部強いじゃん!」
「いけーっ日向ーっ!」

優勝候補の横綱相手にいきなり到来したチャンス、ネルフ学園応援団も盛り上がる。
掲げられたボードは「チャンス 5,6,7,8」。

(ここが一つのヤマ場かも…)

玲を含む吹奏楽部が、軽快な「5,6,7,8」をここぞとばかりに奏でる。スタンドが揺れる。音色が、大きな波になってグランド上に波及していく。


ーーーーーーーーーーーーーー

一塁側、自軍スタンドの盛り上がりとは裏腹に、頭の中で考えるのは打席に入っている日向。
少しだけ、頭の中をスクイズもよぎったが、その考えはすぐに打ち消した。
こういう場面、今までスクイズをした事なんてない。いつも通りでいくべきだ。
大丈夫、今投げている佐々木なんて、普通のピッチャーだ。全然凄くとも何ともない。


普通に、打てる。

小柄な体でどっしりと構え、日向はボールを待つ。佐々木は、ボールを長くもってから、初球を投げ込んできた。

スライダー。狙いのまっすぐとは違う球だが、しかしコースは甘い。

打てる

思った時には既にバットが振られ、ライナーがセンターの前に弾んでいた。


ーーーーーーーーーーー


「よしっ!」
「先制やぁああああ」
「きたきたきたきた」
「キャプテンすげぇええええええ」

八潮第一相手に飛び出した主将の先制タイムリーに、ネルフ学園ベンチは蜂の巣をつついた騒ぎになる。スコアをつけている光は、もう既に涙ぐんでいる。ベンチに帰って来た青葉を、全員ハイタッチで出迎え、そして抱き合う。

「「「学園は我らが誇り
祝福がそして始まる
抱き締めた命の形 その夢に目覚めた時
誰よりも光を放つ
少年よ神話になれ!!」」」

応援団は肩を組んで、得点時の学園歌を歌う。

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