第一部
第一幕 畜生中学生になる
第一幕 畜生中学生になる
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俺は頭が良かった。
食う寝る卵を産む(産ませる)くらいしか考えることのない仲間たちと比べると、より多くのことを考察することができる……のだけれども、それを有効利用する機会はない。
逃げるカエルなんかを追い詰めるのが多少効率的になるくらいで、結局食う寝る卵を(以下略)以外やることのない俺達にとって、こんなもの無用の長物以外の何物でもない。
そんな無意味なスペックをもつ俺に、卵を産ませたいと思うメスができた。
基本的にはオスがメスを選ぶことなんかない。メスの方がオスを選ぶのだ。
けれど、俺がそんな常識と少しばかり異なるのは、やはり俺がこの無用の長物を有していたからなのだろう。普通のオスはメスのニオイを重視する。といっても、そのニオイにメスごとに大きな差があるわけではない。強いて言うなら自分に近いニオイ(逆に遠過ぎるニオイも)がとんでもない異臭に感じるくらいだ。
俺はそんなよくわからん物にはまるで興味がなかった。多くのオスはそのニオイを嗅いだだけで子供の元を出したくなるようだが、俺にはまるでそんなことがなかった。そういうわけなので、俺には子供なんてできないのだろうとぼんやり考えていたのだが、そいつを一目見たとき、俺は生まれて初めて卵を産ませたいと思うようになった。
俺の目を奪ったのは綺麗な肌。
本来保護色や、警戒色としての意味合いが強いそれであるが、そいつの肌は明らかに他の奴らとは一線を画していた。
あまりに鮮やか。
決して保護色警戒色に必要なステータスではないが、俺はそれを見て産まれて初めての感覚を覚えた。
脳みそがブルブル震え、なぜか涙まで出てきた。
俺はすぐにそいつに卵を産ませようとした。
大してあるわけでもない力強さを必死にアピールしたし、早く走ったり、沢山のカエルを捕まえたりもした。
そうしたら、そいつは案外あっさり卵を産む準備をした。
あまりにあっさりとしていたんで、しばらく呆気に取られていたが、なんてことはない。そんなことをくよくよ考えるのは仲間の中でも俺くらいというだけなのだから。すぐに俺はそいつに絡みつき、丸一日ほどお互いにぐねぐねとした。
何故かそいつは俺達の仲間にしてはかなり大きかったのもあって、非常に疲れたではあったが、産まれてきた丸いそれを見ると、また目から涙が零れた。
伝えたい。
この途轍もない、頭の中に広がる何かを、胃から逆流するかの様に込み上げてくる何かを、産まれてくれた卵と、卵を産んでくれたこいつに伝えたい。……だけれども、残念なことに、俺達の間でそんな方法は存在しない。
それでも居ても立ってもいられなくなった俺は思わず近くに寄り──
グシャ。
「!?」
卵が……潰れた。
一瞬で。
バラバラに。
「……? …………??」
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