第一部
第一幕 畜生中学生になる
第一幕 畜生中学生になる
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これからも主人のことをよろしくお願いします』
──電話が切れた。
意味がわからない。
まるで意味がわからない。
「終わったんなら、携帯返せ」
「…………」
俺は無言で携帯をさしだす。
「市川先生から聞いた。お前は数学がなかなかできるらしいじゃないか」
「…………」
「私のかみさんも、今じゃ昼ドラ大好きな専業主婦だが、昔は一流大学でバリバリいろんな研究をこなす、科学者だった。文系な俺の言葉より、理系特有の思考回路を持つあいつの言葉のほうが、同じ理系のお前に合っていると思ったんだ」
そう言ってゴリラは弁当箱に入っていたオニギリを一口頬張る。
「……なあ?」
「なんだ」
「……結局、その『いただきます』は誰に何を言いたいんだ?」
「この食に関わってきた人、食物、動物全てに、感謝を伝えたい」
「……そんなの、伝わるのかよ」
「ああ。当然伝わる」
「……仮に伝わったところで、例えば、あんたの弁当に入ってるウィンナー、その元になった動物があんたを許すと思うか?」
「許さないだろうな」
「…………」
当然だ。いきなり食われて、それをよくわからん一言で許せるような、心の広い畜生なんざいない。
「だからと言って、何も言わないのは間違っている」
「……俺はいままで、たくさんの卵やカエルを食ってきた。だが、一度も『いただきます』なんて言ったことはない。そんな俺はメシを食う資格は無かったのか?」
「ふん。『いただきます』なんて言う動物がいたらおかしいだろう」
「じゃあ──」
「『いただきます』はな、言語と知能の両方を得た人間に与えられた権利であり義務であると、私は思う。私達はこの言葉で感謝と謝罪の両方ができ、しなければいけない」
「…………」
「最近は『いただきます』をちゃんと言える人間も大分少なくなってしまった。私はそれを快くは思えないが、無理矢理やらせるものでもない。お前も、やりたくないならやらなくていいぞ」
「………………」
人間というのは実に面倒な生き物だ。
きっと俺はまだ『ありがとう』も『いただきます』もまるで理解できていないのだろう。
こんな、因数分解よりも難解なものを、毎日ちゃんと理解して使っているのであるのが人間というのであれば、俺は永遠に人間にはなれないと思う。
俺はおばちゃんの作ってくれた弁当をみる。
オニギリにシャケ、サラダ、玉子焼き。色鮮やかに並べられたそれらは、きっといろんなやつらの頑張りとか犠牲とかの上に成り立っているのだろう。
俺はゴリラのやったように胸の前で手を合わせた。
これから俺はこれらを全て食べ、そのエネルギーでまた元気に生きていく。
「いただきます」
ああ面倒くさっ。
これなら畜生の時のが万倍楽だったぜ。
「………………」
俺はオニ
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