第一部
第一幕 畜生中学生になる
第一幕 畜生中学生になる
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?」
『はい。聞こえまし──』
「嘘だ!」
思わず声を張り上げてしまう。
ありえない。そんなことありえる筈がない。
「あんたは嘘をついている!」
『…………』
「あんたが今どこにいるのか知らんが、そんなもん聞こえる筈がない! ……そうか、メールというやつか。俺に隠れてゴリラがメールを」
わかってる。そんな筈はない。
そんなことができる暇はなかった。
でも、そうじゃなければ、一体どうやって──
『確かに、音としては聞こえませんでした』
「……何を言ってる?」
『ですが、気持ちはちゃんと届きましたよ? いただきます。今日もご飯美味しそうだね。いつもありがとうって、気持ちが今でも届いています』
…………気持ちだと?
人間には五感というものがある。
視覚聴覚嗅覚味覚触覚。基本的にはこのどれかを使うことにより物事を知覚するのだ。だというのにこのかみさんというやつは一体、今の『いただきます』を聞いたと言うんだ。しかも、今でもだと? そんな筈はない。だって、ゴリラは今明らかに無言であるからだ。
『人間にはね。聞こえなくとも伝わるものがあります。主人の『いただきます』も、その一つ。確かに私は受け取りました』
「…………意味がわからねえ」
『ふふふ。では、もっと簡単なたとえ話をしましょうか。あなたは算数はお好きですか?』
「……ああ」
『フフフ。では、超難問です。1+5755844-5755844+1は?』
「いや、2だろ」
『おお。早いですね。どんな風に計算をしましたか?』
「同じもんで足して引いてを除去しただけだ。あとは1+1をするだけ。簡単な計算だよ。なめんな」
『それと同じです』
「はあ?」
今の簡単な計算と何が同じだというのだろうか。
『先ほどの計算では、あなたの言うような方法でもできますし、左から順番良く足したり引いたりをしても答えが出ます』
「当然だ」
そんな面倒なことする馬鹿はいないがな。
『それと同様に、主人が『いただきます』と言ったことは、私の心にちゃんと届いたのです。ただ、あなたの計算のように、『聞く』という過程を省いただけ』
「んなもんできるか!」
『……確かに厳密にはできていないのかもしれません。ですが、主人が『いただきます』と実際に言ったという前提があり、私はそれを知覚したという結果が生まれた。それは最早『いただきます』を聞いた事と何が違うというのでしょうか』
「………………」
違うに決まってる。同じな筈がない。ゴリラから発せられた音で、このかみさんの鼓膜は1ミクロンだって動いてはいないのだ。同じ筈があるものか。
『私からの講義は以上です』
「ち、ちょっと待てくれ」
『これ以降のお話は、私の主人のお仕事です。何か質問があれば主人にお願いします。では、
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