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WANDERER
第一章

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第一章

                      WANDERER
 二人はこの時喫茶店にいた。
 街のありふれた喫茶店だ。右手に窓がありそこに行き交う人が見えている。
 だが二人はその人達も風景も見ずにだ。お互いを見合っていた。
 そしてだ。男が言った。
「だからさ」
「違うっていうの?」
「そうだよ、誤解だよ」
 必死の顔で言う。だがその目は泳ぎ顔は狼狽したものだ。明らかに嘘をついているものだった。
「それはさ」
「じゃあ聞くけれど」
「ああ」
「あの時何で電話に出なかったの?」
 女は責める顔で男に問うた。
「どうしてなの、それは」
「あの時は」
「あの人と一緒だったんでしょう?」
 女は男に対して言った。
「そうよね。一緒だったのよね」
「いや、それは」
「聞いたわ」
 女は男の逃げ道を塞いだ。
「友達が見てたのよ」
「えっ、それは」
「あの時。テーマパークで一緒だったって」
「だからあの時俺は」
「友達そのテーマパークで働いてるのよ」
 女は逃げ道をさらに塞いでみせた。そしてだった。
 切り札を出した。出したくはなかったがそれでもだ。
「それでね」
「ああ、だからそれは」
「証拠もあるわ」
 こう言ってだった。携帯を出してきた。
 そこの映像にだ。男がいた。そして今彼が会っているその女とは別の女がだ。笑顔で連れ立って歩いていた。丁寧なことに動画だった。
「これよ」
「それは・・・・・・」
「まだ何か言うつもり?」
 問い詰める女の言葉は厳しい。
「これで」
「それは・・・・・・」
「終わりね」
 女は言った。
「私達もう」
「帰るのか」
「ええ」
 ここでだった。女の目からあるものが落ちた。それは。
 涙だった。一粒の涙をテーブルの上に落としてだ。彼女は言った。
「もうね。二度とね」
「会わないか」
「だからさようなら」
 また言ったのだった。
「貴方の番号は消しておくから」
「そうか」
「貴方もそうして」
 男も自分と同じことをしろとだ。約束させにかかった。
「いいわね」
「わかった」
 仕方なくだ。男も頷いた。もっと言えば頷くしかなかった。選択肢はそれしか残されていなかった。彼にとって辛いがそれでもだった。
「じゃあ今な」
「ええ。それと」
 女は懐からまた何かを出してきた。それは鍵だった。
「これも。返すわ」
「部屋、出るのか」
「荷物はもうないから」 
 女は目を拭きながらこう男に告げた。
「ここに来る前にもう実家に」
「そうか。それでここに来たんだな」
「そういうことよ。それじゃあね」
「さよならか」
「ええ、さようなら」
 この言葉を何度も言う。言わずにはいられなかったのだ。

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