暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
鳳と竜は麒麟を求む
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緊張感溢れる場になっていた。
 比べて秋斗さんは私とは違い、お茶とお菓子のある時間を心底楽しんでいる。
 こちらから話がしたいと誘ったくせに、いざとなると言葉が口から流れる事は無く、唯々時間を浪費してしまっていた。
 きっとこの人は私から話すのを待っている。
 話す事はなんだったか。いざ彼を目の前にすると頭から吹き飛んでしまっていた。
 もう一度考え直すと国の事、政務の事、街の改築工事の事など仕事の内容ばかりが浮かんでは消え、私はこんなにつまらない人間だったのかと少し落ち込んだ。
 雛里ちゃんだったら何を話すんだろう。きっとこの人と他愛無い楽しい話をして笑い合ってるんだろうな。
 親友と彼が仲良さそうに笑い合っている場面を想像してチクリと胸に嫉妬の痛みが走る。
 随分前から芽吹いたその感情は、折り合いをつける事も出来ずに未だ心の真ん中に居座り続け、持て余してしまっている。
「クク、悩んでる朱里の百面相は見てて飽きないな」
 彼の急な発言に思考が止まり、しばらくして言われた事を理解して余りの恥ずかしさに顔が熱くなった。
 そこまで顔に出てたのか。彼に自身の浅ましい心を読まれてやしないだろうか。
 俯き、言葉を紡げずにいる私の頭を秋斗さんはそっと優しく撫で始める。
「何を悩んでるか知らないが、たまには頭をからっぽにしてみたらどうだ? そうだな、空を見上げてみるといいかもしれない」
「空、ですか?」
「ああ。俺は広い空を見てたら悩みなんかちっぽけじゃないかと思えちまうんだ」
 言われてゆっくりと見上げた空は透き通った薄い水色の中にふわふわとした白が幾つかまばらに浮かんでいた。
 流れて行く雲を見つめて、その自由さが羨ましいと感じてしまった。
 何にも捉われず、風の向くまま気の向くままにどこかへ旅立つ白は、思考に縛られ続ける私とはかけ離れすぎていたから。
「……朱里は何かなりたいモノがあるか?」
 ゆったりと、彼が紡いだのはそんな曖昧で難しい質問。きっと私の向ける羨望の眼差しからこちらの心を推測したんだろう。
「……私は――」
 口を開くが何も出てこなかった。
 私はいったい何になりたいんだろう。
 羨ましがって、嫉妬に溺れて、欲しいと願って
 無いモノねだりだと言ってしまうとそこで終わる。
 渦巻く思考をいくら積み上げようとも答えは出ず、自身の頭の悪さに泣きそうになってきた。
「見つからないならこれから探せばいいさ。人生は短いけど長い」
「秋斗さんは……何かなりたいモノがおありなんですか?」
 掛けられた言葉は優しいモノだったが、せめて自分が答えを見つけられるように基準が欲しくて彼に尋ねる。
「そうさなぁ。俺はこの世界に俺一人だ。何かになれるとしても『秋斗』というちっぽけな人だけだろうけど……もしなれるな
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