藍橙の空を見上げて
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思考が積みあがっていき一つの解へと行き着いた。
つまり秋斗は高祖劉邦と似た人物を作ろうとしているんだ。
大陸を二分した過去を繰り返して、今まで出てきた間違いを治世で改善してより強固な平穏を作る。これから先に腐敗することが無いように新しいモノを取り入れて。
対立した思想はどちらが正しいかを明確に民に証明するための手段であり、力のある権力者の存在を世に知らしめることが出来て、どちらが勝ったとしても治める王が非道で無い限り長い安寧をもたらす事が出来るだろう。
「じゃあ桃香がダメな時は?」
可能性としては在り得るだろう。成長が間に合わない場合、大陸を統一できるほどの器で無かった場合、秋斗はどうするのか。
しばしの沈黙が場を包み、何を考えているのか背を向ける彼からは全く読み取れなかった。
「……その時は俺に力を貸してくれないか?」
振り向いてボク達を強い眼差しで見やり助力を請う。その意味は桃香を裏切ると言う事だ。幾多の想いを引き連れて、桃香の代わりに『劉備』になる、と。そのためならばどんな手段でも使うだろう事は予想出来る。
大陸を変える王になる、その決意にはどれだけの覚悟が必要なんだろうか。
三人の中で理解できるのは一人だけ。類まれなる王の資質を持つボクの親友なら、きっと秋斗の覚悟を全て理解している。
「秋斗さんが望む世界のために、私の智を振るいたいです」
突然、雛里が声を上げる。
ずっと秋斗を見てきた彼女は既に起こり得る可能性として想像していたはず。凛とした表情からは彼女の覚悟の大きさがありありと伝わってきた。
「私は支える事しかできません。ですが先の世の平穏を見るためになんでもお手伝いさせて下さい」
彼に王の何たるかを説けるのは月だけ。成長を促す役になれるだろう。
「ボクも手伝うわ。言ったじゃない、平穏を作るまで支えてあげるって」
言うと秋斗はふっと微笑んで空を見上げた。
ボク達もつられて視線を移すと藍と橙が綺麗に入り混じっていて、その美しさに思わず見惚れてしまう。
「俺のこの罪深い行いの為にどれだけの犠牲が出るかは分からない。でもその先に誰もが夢見る大きな平穏があると信じてくれるか」
哀しそうな、それでいて嬉しそうな呟きが空に消える。
きっと秋斗は壊れる寸前で
何かを信じていないともう持たないんだ
本当は王になんかなりたくない優しい人なのに、それでも誰かを救いたくてたまらないから覚悟を呑んだ。絡まった責任の糸はもはや彼をその場から離してなどくれない。
もう一つ、違う道だってあるのに。
「ありがとう、ごめんな」
二つの言葉に込められた多くの想いを無言で受け取り、少し目を瞑って自身の心に刻み込む。
ボク達は星がぽつぽつと瞬き始める空をしばらくの間眺め続けた。
†
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