藍橙の空を見上げて
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すと所々に焼け果てた家屋が残っていて、それらを見ると自分達が巻き込んでしまったんだという想いが心を激しく責め立てる。
どうして自分は救いきれなかった
どうしてもっと早くから行動を起こさなかった
どうして自分は全てを読み切れなかった
どうして……ボクは皆を守れなかったのか
幾多ものどうしてが思考を渦巻き圧しかかる重圧に涙が溢れそうになる。
突然、二つの繋がれた手がぎゅっと力強く握りしめられた。
驚いて交互に二人を見ると、瞳は哀しみに暮れていたが奥に宿る光は明るく、弱いボクを励ましているようだった。
きゅっと唇をきつく結び、気を抜けば零れそうになる涙を抑え込み、眼下に広がる街並みをもう一度見回す事にした。
しばらく四人で沈黙していると涼やかな風が一筋頬を撫でて、もうすぐ夜がくると優しく告げてくれる。
心に圧し掛かる罪悪感の重圧を自分の中に溶け込ませていると、黒衣の男が一歩前に踏み出す。
その背中は大きいはずなのに小さくて、確かにここにいるのに消えてしまいそうで、何故かひどく切なく感じた。
「ねぇ、秋斗。あんたみたいな奴がどうしてまだ桃香の所にいるの?」
口を突いて出たのは聞きたかった疑問。
劉備軍の誰一人としてこんな行いはしなかった。
死者に礼を尽くして、自身の罪を確かめて、自分を責めぬくような事を。
ボクの言葉に彼は幾分かの沈黙の後、こちらを見ずにゆっくりと語り始める。
「……思想や考え方ってのは完全に一つになる事は無い。誰もがそれぞれ譲れない矜持を持っていて、心に一本の線を引いている。己を守るために、誰かを守るために。乱れた大陸を救うために覇を唱えるモノは確実に出てくる。全てを先導する強大なる王は、万が一にも暴走した時にこの大陸を焼き尽くすだろう。その時誰が民を守る? 対抗するには違った思想が必要で、希望を与えるには別の王こそがそれを為せる。俺がここにいるのは世界を変えるためともう一つ、大陸の自浄作用を育てるためだ」
話された事柄に驚愕を禁じ得なかった。なんというバカげた事を。どこまで先を見ての考えなのか。でもそれよりも……
「俺が自分で立てばいい、とそう思ってるだろう? けどもう出来ないんだよ。賽は既に投げられている。俺達の置かれた状況とこの大陸の現状から判断すると厳しい、それに桃香のように天性の才で人を惹きつけるような魅力もない。何よりも俺はこれまで繋いだ想いを裏切る事なんか出来やしないんだ」
雛里の瞳が隣で絶望の色に染まる。
きっと秋斗がここにいる発端は彼女にあるのだろう。最初はただ武力が高く、頭も悪くない奴だったのが予想出来る。
ただ一つ違ったのは桃香の理想の穴を知っていたという事。その矛盾が彼を急激に成長させたのか。
桃香を呑み込めるほどのモノへと。
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