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乱世の確率事象改変
黒麒麟の右腕
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盛り上がった筋肉は見たモノ全てに威圧感を与える事が予想される。
「副長、おはよう」
 副長と呼ばれた男は後ろから掛けられた声に振り向き、秋斗の姿を確認してから軽く会釈をする。彼の身体では軽くといっても人より大きな動作に過ぎるだけだが。
「おはようございます、御大将。……昨日の夜に何かあったんで? ひでぇ面してますが……」
 顔を上げて自分の主を良く見ると、余りに生気の無いその表情に違和感を感じ、思わず敬語も使うことが出来ずに疑問の言葉が口を突いて出た。
 戦の後にはいつも心を痛め、自身を責め抜いている事は知っていたが、さすがに今回ばかりは異常すぎて看過できない。
「気にするな。少し深酒が過ぎたのか眠れなかっただけだ。星の酒好きは知っているだろう? それよりも昨日の夜は隊の指示をお前だけに任せて悪かった。後、今日の洛陽に配置する人選だが―――」
 一つ謝った後、いつも通りに自分達の仕事の話を説明し始める主の話を聞くが、やはり感じ取れた違和感は拭えない。
 主の友が大の酒好きである事は幽州にいる時から分かっている。しかし原因はそれではなく、もっと精神的な何かである事は人の心の機微に疎い自分でも簡単に理解出来た。
 淡々と説明を続ける主の言葉はいつの間にか自身の耳には届いておらず、何がこうなった原因かと思考を巡らせ続けてしまう。
「―――ってな感じで行こうと思う。……副長?」
「……っ! 呆けておりました! 申し訳ありません!」
 己が主の呼びかけにハッと思考の迷路から現実に引き戻され、説明を聞き逃していた事を謝罪する。
「……謝らないでいいよ。それよりこちらこそすまん。俺はどうやら嘘が下手らしい。心配してくれてありがとう」
 本来ならば侵すはずのない重大な失態を起こしてしまった副長に対して、ふっと微笑み礼を口にする彼の表情は少し穏やかだった。
 他人の心が読めるのではないかと思うほどに人の機微に聡い彼は、共に過ごしてきた時間とお互いに寄せる確かな信頼から副長の心の内を見透かし、今回のような失態を責める事はない。
「あんまり無理すんじゃねぇよ。御大将、憂さ晴らしくらいは付き合うぜ?」
 それに対して副長はおよそ自身の主に向けるべきではない話し方で気遣う。部下としてではなく人同士の付き合いの時は口調を砕いていいと言われていた。故に副長は戦友として、一人の男として彼に優しく話す。
 そしてそれ以上何も言わないのは彼の事をよく分かっているからこそ。
 確かに人に頼るのは信頼の証だろう。全く頼らないのは人によっては心の繋がりが薄いと取られかねない。だが彼の場合は違うと言える。何も話さないからこそ、自身で抱え込むからこそなのだ。信じていない、のではなく信じて欲しい。それが不器用で優しい彼の信頼の証明。
 副長はそれを分かっているからこ
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