第五十六話〜すり減らしてゆく力〜
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う通りですよ。その意見は却下や」
ヴィータの反応にどうやって彼女を納得させようか、と考え始めていたゼストの背中に新しく声が掛かる。
「はやて!」
「ヴィータ、無事そうやね」
髪が脱色されたような色で瞳が水色になっているはやてが、背中に広げた六枚の黒翼を動かし飛んでくる。髪の色と瞳の色ではやてがユニゾンを行っているのが解る。それはリィンフォースの復帰を意味していたので、ヴィータは内心で安堵の息を吐いた。
「手段を探している暇はない。ベストの案が今すぐ用意できないのなら、ベターを取るべきだ。それに俺にはもう時間は残されていない。残り少ない命を意義あるものとして扱える、与えられたこの機会を私から奪うな」
「っ!」
それはゼストの心からの本音であった。彼は自己満足でしかないと否定され、そして新たに目的を与えられた事をライに感謝していた。そして自分の行いを犬死でないことの照明を彼は最後に残したいと考える。
それは彼の我侭だ。だが、それを捨ててしまえば、それこそ本当に彼は死人以下の亡霊になってしまう。だからこそ彼は望む。それはゼストにとっての生きていることの紛れもない証であった。
はやての意見に異を唱え、尚も自分を犠牲にしろと言ってくるゼストにヴィータは再び噛み付こうとする。だが、ヴィータの隣にいたはやてが片手でそれを制する。
「また、逃げるんですか?」
「なに?」
自分の事を知っているような発言にゼストは眉をひそめる。しかしそんな彼の反応も気にせず、はやては言葉を続ける。
「死ぬことで自分の行ってきた事の責任を誰かに押し付けて、自己満足の理由を他人から貰って……気楽ですね」
はやての言葉に一瞬殺意を抱いたゼストであったが、叫ぶように続けられた言葉に彼は今度こそ黙り込む。
「あんたにはまだこの先、罪と罰を受ける責任がある。それを死ぬことで逃げようとするんは卑怯で臆病者のすることや!少なくともあんたが死ぬのは勝手やけど、それの理由にライ君の名前を使うんは許さん!」
「……」
「これ見い!」
そう言ってはやてが1つのデータをゼストに見せる。それはゼストの現在の身体データと延命の為の治療データ。
それを見たゼストは驚きの表情を見せる。
「それはライ君が送ってきたデータの中にあったもんや」
「!だが彼は俺を―――」
ライとの契約をした夜の光景がゼストの脳裏を過ぎる。
「ライ君は……彼はあんたに犠牲になってもらうくらいなら、自分が犠牲になることを望むんや。彼は本当に優しいから」
「ならば――」
「でもそれ以上に彼は他人を信じるから、信じていたいから、あんたを信じて、あんたが生きることを諦めないことを信じて戦う場所を与えたんや
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