第一章
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平凡に
遠山秀翼は工事現場で働いている、年齢は二十五歳だという。
きめ細かい女性的な白い肌に卵型の顔である。涼しげな奥二重の目で細い眉はきりっとした感じだ。唇は綺麗なピンクで癖のある細い黒髪を耳を覆わせた形にしている。背は一七八程だ。
その彼についてだ、同じ職場の同僚達はひそひそと話した。
「あいつ何処かで見たよな」
「ああ、そうだよな」
「何か何処かで見た様な」
「そんな奴だよな」
こう話すのだった。
「何処だったかな」
「テレビか?まさかな」
「いや、違うだろ」
「別の場所じゃないか?」
「それでも何処かで合ったな」
「ああ、そのことは間違いないよな」
こう話すのだった、具体的に何処で見たかはわからないが。
しいかし彼は特に仕事が出来ない訳でもなく人付き合いも普通だ、顔立ちはいいが人間として問題点はなかった。
それで人付き合いもよかった、それで悪い評判はなかった。
よくその同僚や先輩達とも飲みに行った、そこでもおかしなところはなかった。
変なところはない、その彼に同僚達は駅前の赤提灯の居酒屋で問うた。
「御前前は何処にいたんだ?」
「何か何処かで見たんだよな」
「何かちょっとな」
「見た気がするんだけれどな」
「いや、別に」
特にだとだ、彼はビールのジョッキを片手に応えた。
「何処にも」
「おいおい、隠してるのかよ」
「ちょっとそれはよくないだろ」
「別に怒らないからな」
「そのルックスだとモデルだったのか?」
「それか俳優か?」
「いや、どっちでもないです」
秀翼は笑って返した、一旦ビールを飲む手を止めてつまみにしている烏賊の姿焼きを食べる。そのうえで言うのだった。
「まあ隠すつもりはないんですけれど」
「あっ、じゃあ何だ?」
「あんた何だったんだ、前は」
「この工事現場に来るまでは」
「何をやってたんだよ」
「ウジテレビにいたんですよ」
全国放送のそのテレビ局にだというのだ。
「そこでキャスターをしてたんですが」
「ああ、あのテレビ局か」
「あそこにいたのか」
「それでキャスターやっててか」
「俺達も見ていたんだな」
テレビに出ているだけで、しかもテレビ局の社員であるキャスターならば消えものと言われるタレントと比べてもコンスタントかつ広範囲に知られることになる、それでだったのだ。
「俺達も御前の顔を見たんだな」
「そういうことか」
「そうだと思います、俺も」
「けれど何でなんだ?」
一人が首を傾げさせて酒を飲んで赤くなっている顔で彼に問うた。
「キャスターは辞めたんだよな」
「はい」
その通りだとだ、彼も答える。
「ウジテレビも」
「勿体なくないか?あそこ給料凄いだろ」
「ええ
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