第一章
[2]次話
床で
その時泉真希は入院していた、それも普通の病気ではない。
見舞いに来た母にだ、こう問うたのだった。自身の病気のことを。
「私、助かったのよね」
「特にそんな病気じゃないのよ」
「そうよね、けれどね」
「凄く変わった病気らしくてね」
つまりだ、奇病だというのだ。
「それでなのよ」
「暫く入院しないといけないのね」
「全快まで時間がかかるらしいな」
「治療法がないとか?」
「あるのよ、けれどね」
それでもだというのだ。
「それが時間がかかるから」
「だからなの」
「そう、暫く入院することになるわ」
「やれやれね」
小柄で童顔だ、髪の毛は茶色にして波立たせて伸ばしている。その彼女が溜息を出して言った言葉である。
「それでどれ位入院するの?」
「三ヶ月よ」
「長いわね、本当に」
「それでその間ね」
「大学は、よね」
「休学になるわね」
母は真希にこのことも言った、娘の丸い大きな黒い目を見ながら。
「残念だけれどね」
「三ヶ月ずっとベッドの中なのね」
「少なくとも病院からは出られないわ」
「お部屋からは?」
「看護婦さんが付き添ってくれるなら」
それなら、というのだ。
「出られるわ」
「そうなのね」
「けれど基本はね」
「ベッドの中ね」
「そうなるわ」
「本当にやれやれね」
「お母さん毎日来るから」
娘がその三ヶ月退屈でしかも入院生活が長くなるので塞ぎ込むと思ってだ、母は真希にこう言ったのである。
「約束するからね」
「いいわよ、って言いたいけれど」
「それでもよね」
「ええ、お願いするわね」
こう返す真希だった。
「流石に三ヶ月退屈だから」
「ゲームも持って来るわね」
「ゲームはしていいのね」
「そういうのはね」
構わないというのだ、病院の中でゲームをしても。
「いいわ」
「じゃあ後は漫画とかラノベもね」
「わかってるわ、持って来るわよ」
「楽しみにしてるから」
むしろ慰めと言っていい、入院生活の中での。
「そうしたことね」
「わかってるわ、じゃあ三ヶ月の間ね」
「ここにいるから」
真希は観念した感じで母に返した。
「というかおかしなことね」
「病気になったことね」
「これまでそんなことなかったのに」
風邪はひいたことがあるが大きな病気になったことはない、それで言うのだ。
「急になるなんてね」
「病気はいつも急に来るものよ」
母は苦笑いを浮かべて言う娘にこう言って慰めた。
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