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女王の決断
第六章

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「そのことも」
「ローマからの習わしですから」
「そのことも知っていますが」
「ですから」
「彼等に落ち度はないのですね」
「彼等も礼節を守りました」
 王への、それをだというのだ。
「ですからお咎めはない様に」
「わかりました、彼等への罪は問いません」
 女王は苦い顔だがこのことは約束した。
「そしてです。彼女の髪の毛は殆どなくなっていたのですね」
「あの髪の毛は鬘でした」
 一見すると豊かだったその髪はというのだ。
「そしてお顔もかなり」
「老け込んでいたと」
「よく見れば」
「美しいと評判でしたが」
 メアリー女王は美貌で知られていた、その彼女がそうなったことも聞いた女王だった。
「それがですか」
「左様です」
「十九年、長かったですね」
 女王は瞑目して述べた。
「しかしそれも終わりました」
「ですか」
「亡骸は女王として埋葬しなさい」
 処刑されたがそれでもだ、王としての礼は忘れるなというのだ。
「よいですね」
「わかりました、それでは」
「丁重に」
「そしてスコットランド王ですが」
 最後にだった、女王は彼女の息子であるこの王のことを話した。
「私がこう言っていたと伝えるのです」
「何とでしょうか」
「不実な息子と」
 これ以上はないまでに忌々しげにだ、女王は言葉を出した。
「そう言っていたと伝えなさい」
「わかりました」
「おそらくこの処刑を口実にスペインかフランスが動くでしょう」 
 女王はその先もわかっていた、だから今言うのだ。
「戦争の用意を」
「海軍のですね」
「両国が手を結ぶことはないですが」
 スペインとフランス、即ちハプスブルク家とヴァロワ家は数百年来の犬猿の仲だ。その争いの歴史はイングランドとフランスのそれに匹敵する。
 だからだ、同じカトリックの国といえど両国がイングランドに対して手を結ぶということはないというのである。
「それでもです」
「どちらも大国、ですから」
「用心をしてですね」
「はい、国土を守るのです」
 このことも命じたのだった、女王は苦い顔だがそれでも政治のことは忘れなかった。
 メアリー女王の亡骸はエリザベス女王の言葉通り女王として葬られた、女王は苦い決断をしてそれを実行せざるを得なかった。このことは今も歴史に残っている。エリザベス一世というイギリスの歴史に永遠に残る女王の苦くせざるを得なかった政治的決断として。


女王の決断   完


                     2013・9・1
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