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乱世の確率事象改変
月詠に願いを憶う
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んたになら、ボクはちゃんと自分から真名を預けたい」
「わ、私も……仕方なくではなくてちゃんと心から真名を預けたいです」
 私達が言うと少し罪悪感が甦ったのか彼の瞳はまた暗く沈む。同時にそんなモノは欲深い偽善の心だと自分を責めているのかもしれない。
「……俺も平穏の世を望む君たちに真名を預けたい。俺の真名は秋斗」
 きっと彼から真名を言ってくれたのはその気持ちの表れだろう。
「月といいます」
「ボクは詠よ」
 真名を聞いた彼は少し懐かしむような顔になった。私達二人の真名が彼にとって何か思い出深いモノだったんだろうか。
「ありがとう。必ず平穏の世を作ってみせる。だからそれまで――――」
「それまで支えてあげるわ」
 言い終わる前ににやりと笑う詠ちゃんに違う言葉を続けられていた。そんな詠ちゃんのいじわるが少し可愛くて笑ってしまう。
「あとさ、あんたに聞きたいんだけどなんで他の軍に行かないの?」
 詠ちゃんの言葉に、面喰っていた秋斗さんは目を瞑り、何か悩んでいるようだった。
「それは――――」
「秋斗さん、入るよー」
 彼が口を開いたと同時に天幕の外から声がした。劉備さんが来たんだろう。
 声を聞いて詠ちゃんの表情が少し険しくなる。
「ああ、構わないぞ」
 返事を聞いて劉備さんと諸葛亮ちゃんと鳳統ちゃんが入ってきた。秋斗さんが椅子を用意して劉備さんを中心に皆それぞれ座る。
「えっと……お話は聞きました。お二人の身の安全は私達が保障します。でも……」
 言いよどんでいるのはきっと真名の事だろう。自分自身の全てと言っても過言では無い真名を預けると言う事は彼女に対しても多大な罪悪感を与えている。
「桃香、お前が優しいのは分かっているが二人の決断を穢しちゃダメだ。偽名を使おうとすればできるだろうが二人はそれをしなかったんだ。分かるだろう?」
 秋斗さんの厳しい口調に劉備さんが哀しい顔になる。それを見て少し険の取れた表情で詠ちゃんが答える。
「秋斗、ありがとう。気にしなくていいわ、劉備。ボク達は偽りたくないのよ」
 詠ちゃんの言葉は全てを言ってない。秋斗さんには、という言葉が抜けている。けど私も同じ気持ちだから何も言わない。
 彼の真摯な想いに対して私達は真名を預ける事を決めたから。劉備さん達は信用出来るだろうけど信頼は出来ない。
 でも、鳳統ちゃんはきっと別。多分彼女は秋斗さんと同じだと思う。詠ちゃんの怨嗟の叫びに、彼を心配して飛び込んできたのは彼女だけなのだから。
「うん、分かったよ。ごめん。私の真名は桃香。これからよろしくね」
 それは日輪のように明るい笑顔だった。きっとこの人はとても綺麗な心を持っているんだろう。だからこそ民が惹きつけられて、誰かが希望を持たずにはいられない人なんだ。
 「し、朱里といいます」

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