月詠に願いを憶う
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人をたくさん巻き込んでしまいました。大陸に平穏を作る所を傍で見て、自己満足ですが少しでもその責を背負いたいんです。雑用でもなんでもしますから……」
この人はどこまでも……あの人に似ている。それが少し羨ましい。人となりというよりも根幹にあるモノが、向ける想いと進む道筋が似ているんだ。
嫉妬ではなく、純粋な羨望の気持ちを零してしまいそうになったが、どうにか振り切り、彼女達へ返答を行う。
「……お二人はこれから名を失う事になりますがよろしいんですか?」
「どっちにしろもう名乗る事なんかできないでしょ? だから真名を預けるしかないわね。名前を呼べないと侍女なんかできないし」
大切な真名を預けるしかなくなるなんて。私達はそれほどの事をしてしまった。
偽名を使う事は出来るだろう。しかしそれをしない理由が私には分かってしまった。彼女達は偽りたくないから真名を預けてくれるんだ。
胸の奥に冷たい鉄の塊が落ちたように罪悪感が圧しかかった。そんな私を見てか董卓さんは優しく微笑みながら口を開いた。
「鳳統さんが気に病む必要はありませんよ。これは私達が招いた事で、望んだ事です。自身の不手際を、どうして他人に押し付けられましょうか」
「そうよ、鳳統。ボク達がしようと決めた事だからあんたが泣きそうになることないわ。それに、ボクが言えたことじゃないかもしれないけど感情に引きずられて最善を判断できないのは軍師として失格。ボクはもう割り切った。まあ、月のおかげだけどね」
「……それでも、ごめんなさい」
優しく諭してくれても謝らずにはいられなかった。本当はそれさえも、彼女達の覚悟を穢す行為であるというのに。
「ふふ、あの人と同じでお優しいですね」
董卓さんの微笑む顔は暖かくて全てが慈愛に溢れていた。
「……っ……ではその旨を桃香様に伝えてきます」
その笑みに自分の罪深さと彼女の強さを思い知らされ、ここにいる事が辛くなり一つ言葉を置いて急いで天幕を出る。
歩き出した途端、愚かしい事にも涙が目に溜まった。
ダメだ、こんなの。
私は弱い。こんなことじゃあの人を支えられない。
この重みを一人で背負わないとあの人の隣には立てないのに。
強く自分に言い聞かせても心にのしかかるモノは軽くならなかった。
桃香様の天幕に向かう途中、ゆっくりと歩いてくる秋斗さんを見つけた。
「……雛里、彼女たちはどうだっ……た?」
立ち止まり、呼びかけられても顔を上げられず、直接目を合わせることが出来なかった。
答えないといけないのに何も話す事ができずにいると、一つ二つと地面に水滴が零れだす。
止まれ止まれと無言で呟いて、手を握りしめても、目を瞑っても、次から次へと溢れる雫は頬を伝う。
突然ふっと身体が包みこまれる。
「大丈夫。溜めないでいい
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