雛が見つけた境界線
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した。
「桃香らしいな。和をもって大陸を呑みこんで見せる、そう言うのか」
桃香様は迷わなかったけど結局変わらない。甘いままだ。もう間違えないと言いたいだけだ。ここでは誰も気付かない。この人の心は悲鳴を上げている。今まで殺してしまった人たちの想いがその心にのしかかり、その重圧に砕けそうになっている。感情を殺した声はそれを見せないための嘘の声。
私は堪らなくなって皆に気付かれないように机の陰で彼の指を一つ握る。私も共に居ますと伝えるために。
「うん」
顔を上げた桃香様は強い瞳を携え返事をした後、秋斗さんを真っ直ぐに見た。ゆるぎない覚悟を携えた瞳は、その意思が固い事を示していた。
しかし、
「世界を想って、大陸の平穏の為に、犠牲も厭わないで動くんだな?」
射殺すような冷たい視線、重く突きつけられる彼からの問いかけに桃香様が圧倒され、周りの皆も固まってしまった。
大きな覇気をもって放たれた言葉は天幕内の空気を一変した。話す事が出来るのはただ一人。
ゴクリと喉を一つ鳴らして桃香様が震えながらも口を開いた。
「はい。大陸の平和のために全てを賭けて動きます」
それは曖昧な返答。秋斗さんは具体的なモノを求めてるのに。
善人でも従わせる事が出来るのか。
断られたらどうするんだ。
仲間を、友を切り捨てる事ができるのか。
暗にそれを示している事に気付かなかった。
本当は直接そう言いたいけど多分言わない。この人は平行線の水掛け論なんかしない。
桃香様と対立する事が目に見えてるからここまでしか言わない。ギリギリの綱渡りのようなやり取りをして桃香様と皆に楔を打ち込んだ。
曖昧な返答はある意味で正解だった。この軍が瓦解する事は無いのだから。桃香様が気付いて論争になればこの軍は確実に二つに割れただろう。
「ならいい。大陸に平穏を与えられるなら、俺は変わらず力を貸そう。桃香、この先も、何があっても絶対に迷うなよ」
「うん。皆もこれからもよろしくね」
ふっと微笑んだ秋斗さんの目を私はちらと伺う。一瞬、その眼は落胆に染まったように見えたが、彼が瞬きするとその色は霧散してしまっていた。
ここまでしても変わらないならまた袋小路に直面した時に自分で決断してみせろ。秋斗さんならそう思っているだろうと予想できた。
今回は彼が代わりに全てを決断し、実行した。桃香様にもそれができるのか試す気だ。
この人の背負うモノは確かに減ったかもしれない。しかし同時に自身の抑圧という名の枷が強く大きなモノになってしまった。
どうしてそこまで桃香様に拘るんですか。確かに人を惹きつける稀有な才能を持っている。確実に王として成長してもいる。
でも……それでも私は……
いや、ダメだ。この人の望みの方が私にとっては大事
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