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手を借りれば
第一章
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                   手を借りれば
 光一はこの時とても大変でした。
「ええと、川田光一、と」
 まずは名前を書きます、書いているのは夏休みの宿題のテキストにです。
 テキストだけでも何冊もあります、しかもです。
 光一は他にも一杯宿題を抱えています、扇風機を横において机に座っている彼にお母さんが後ろから言ってきます。
「ほら、だから言ってたでしょ」
「宿題のこと?」
「そうよ、早いうちにしておきなさいって」
「まだ二十日だよ」
 八月のです。
「三十一日に比べたらまだ時間があるよ」
「もう二十日よ」
 これがお母さんの言葉でした、お母さんは後ろで洗濯ものを畳んでいます。
「あと少しじゃない」
「大丈夫だよ、絶対に全部やるから」
「本当よね」
「そうだよ、絶対にやるから」
「じゃあ頑張りなさい」
 お母さんはどうだか、という顔で自分の息子に返しました。そのうえで言うことは。
「全く、お兄ちゃんはもう宿題を終わらせたわよ」
「お兄ちゃんは頭いいからね」
「あんたもそうしなさい、何でも早いうちにやっておくと後が楽なのよ」
「遊べるうちに遊べないと駄目だよ」
「そう言うからいつもそうなるんじゃないよ」
「いいんだよ、絶対に終わらせるから」
「じゃあそうしなさい」
 こうしたやり取りをしながらでした、光一は夏休みの宿題を必死にしていきます。答えを適当に書いていってです。
 テキストを必死にしていきます、ですが宿題は他にも一杯あるます。
 作文もあれば日記もあります、そして光一の苦手な書道や絵もです。
 そうしたものも一杯あります、勿論こうしたものも全部しないといけません。
 それでテキストを必死に終わらせながらです、光一はこう思ったのです。
「分身が欲しいなあ」
 つまりもう一人自分がいてその自分にも宿題をやって欲しいというのです。
「いないかなあ、本当に」
「ニャア」
 ここで隣から声がしてきました、右の方から。
 その右に顔を向けますと家の飼い猫のたわしがいました、全身茶色の毛の丸々と太ったスコティッシュフォールドです、毛の色と感じが似ているのでたわしという名前になりました。
 そのたわしを見てです、光一はこう思いました。
「若しかしてこいつがやってくれるかも」
 宿題を、というのです。
「テキストや日記はやって」
 自分で、だというのです。
「それで苦手なものは」
 つまり書道や絵はです。
「こいつにやってもらうか、図工の作品も」
 こちらも苦手なのです、光一はかなり不器用な子なのです。
 それで自分の横でくつろいで寝転がっているたわしにです、こう言ったのです。
「なあたわし」
「ニャア」
 たわしは彼に顔を向けて応えてきました、猫の声で。

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