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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第八十三話 フェザーン謀略戦(その5)
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「……」
ルビンスキーが弾かれた様に顔を上げ俺を見た。にっこりと笑ってみせると慌てて視線を逸らす。レムシャイド伯が目を見張って俺とルビンスキーを見ていた。

「私とはどの私だ」
「……」
今度は肩がぴくっと動いた。“馬鹿な……”、ルビンスキーが呟くのが聞こえた。

「フェザーンの自治領主、ルビンスキーです。総大主教猊下には御機嫌うるわしくあられましょうか」
「……」
周囲がざわめく。おそらく皆顔を見合わせあっているだろう。ルビンスキーは顔を伏せたまま動かない、そして震えている。故意に笑い声を上げた。さてルビンスキーにはどう聞こえているか……。

「随分と低姿勢ではありませんか、アドリアン・ルビンスキー。何時もの貴方らしくない、自信も無ければ傲岸さもない。まるで主人に対する奴隷のようだ」
「……」

嘲笑を込めて言い放つとルビンスキーの身体の震えが更に酷くなった。レムシャイド伯に視線を向けた、伯も蒼白になっている。リンツ、ブルームハルトも貧血でも起こしたような顔色だ。可笑しかった、訳もなく笑い声が出た。その声に更に皆の顔が蒼褪めるのが見えた。

「大変でしょう、自分の心を押し殺すのは……。言葉ではなく思念が相手に届いてしまうのですからね。常に奴隷として振る舞わなくてはならない。野心家の貴方にとっては非常な苦痛だ」
「……」
ゴクッと喉が鳴る音がした。誰かが唾を飲みこんだのだろう。その音だけが部屋に響く。

「しかし失敗すれば貴方に待っているのは死だ。彼らは裏切りを許さない、貴方の前任者、ワレンコフのように急死する事になる」
周囲がまたざわめく中、ルビンスキーが顔を上げた。
「……馬鹿な、貴様、一体……」

「何者だ? それとも何故知っている、ですか。詰まらない質問だ、……言ったでしょう、世の中には不思議な事がたくさんあると」
思わず笑ってしまった。転生者に何者と聞いてどうする。何故知っていると聞いてどうする。答えられるわけがない、ただ笑うだけだ。周囲が俺を怯えたように見ているのが分かった、それでも俺は笑うしかない。そしてルビンスキーはさらに怯えた表情を見せた。

笑い終わってルビンスキーの顔を覗き込んだ。ルビンスキーは俺と目を合わせようとしない。
「通信が終わると貴方はこう考える。自分は地球を支配する者達にとって一介の下僕でしかない。しかし、未来永劫にわたってそうだろうか? そうであらねばならぬ正当な理由は何処にもない……」
「……止めろ」
ルビンスキーが呻いだ。

「さて、誰が勝ち残るかな」
「止せ……」
「帝国か、同盟か、地球か……」
「止めるんだ……」
ルビンスキーが俯いたまま呻く。

「それとも、俺か……」
「止めてくれ!」
最後は絶叫だった。頭を抱えて呻いている。凍り付
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