Introduction
第十一話 紫苑と紫音
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かった。この学園でいる限りは僕は姉の名で呼ばれる。ましてや紫音の夢を見た直後にその名で呼ばれたら少し気分が落ち込んでいたかもしれない。でも、今は楯無さんのおかげか少しすっきりした気分だ。
しかし、その直後に僕の携帯が鳴る。まだ朝も早いこの時間にかけてくる人は僕の知り合いでは少ない。束さんだろうか、と思い手に取ってディスプレイを見ると、そこに表示されたのは父の名前だった。
入学から今まで全く連絡がなかったのになんだろう、と思いつつ電話に出ると聞こえてきたのは聞きなれたいつもの父の声ではなく、淡々としたものだった。
『紫苑か?』
「うん、どうしたの?」
『時間がないから要点だけ言うぞ』
その声には全く感情が込められておらず、どこか事務的だ。自分の記憶にある父の声とは違和感がある。
『紫音が死んだ』
「……え?」
しかし告げられた内容は僕にとって全く予期せぬものだった。
『だが、やることは変わらん。表向きは紫苑が海外留学中に事故死したということになる。処理は全てこちらで行う、お前はそのままIS学園に通え。いいな』
「え、ちょ、ちょっと待ってよ!」
『また追って連絡する。くれぐれも勝手に動くな』
「待って、父さん、父さん!」
しかし、父はそのまま電話を切ったのか僕の耳にはただ電子音が響く。
姉の突然の死。確かに原因不明の病と聞いていたけどすぐに死ぬようなことはないとも聞いていた。それがこんなに急に死ぬ事になるなんて。そして、父がそれを隠すような指示を出したのも僕には衝撃だった。父は僕が紫音の代役として入学することを心苦しく思っている、そう思っていた。何故なら西園寺の家の中で唯一の味方は父だけだと思っていたから。
でも、今の電話からはそんなものは微塵も感じることができない。
「紫苑君!? どうしたの?」
電話の内容から何かあったと悟ったのか、再び心配そうに僕の元に楯無さんがやってくる。目の前にいるのは、この学園で事情を知る数少ない人間。混乱している僕は縋るような思いで話してしまった。
「そう……お姉さんが……。そしてあなたはこのまま学園に通うことを強要されるわけね。正直な話、私としてはそれは助かるのだけど、あなた自身はどうなの?」
「僕は……どうしたいんだろうね。父のことも正直考えられないし、何より紫音が……姉が死んだっていうのに何の感情も湧かないんだ。悲しいとも何とも……思わないんだ」
「紫苑君……なに……言ってるの? ならあなたは何で……泣いてるの?」
「え?」
楯無さんに指摘されて目元を指先で拭うと、確かに湿っていた。そのあとも止めどなく目から何かが流れてくるのがわかる。
「泣い……てる?」
「あなたはお姉さんに対していろんな想いがあった
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