第1話 「コード・クラッシュ/CHORD・CRASH」
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ツを、図書館へ帰しに行ってくねぇか?」
「また本を?」
アキトはつまらなそうな顔で本を付け取るが、それと同時にレッドはポケットから彼に五百円玉を投げ渡した。
「帰りにコイツで何か菓子でも買ってこい?駄賃だ」
「本当!?行ってきまーす!!」
ケロッと笑みを浮かべて、はしゃぎながらスケボーにのって図書館へ向かった。
「レッドが小遣いくれるなんて♪」
珍しいと、アキトは口笛を口ずさんで路上をボードで走った。ドけちだが、母のように優しく、父のような時に厳しくする兄貴分のレッド、そんな彼はガラクタ置き場に捨てられていたアキトを拾い、男一筋で育て上げた。アキトもそんな彼を兄のように慕っていた。
鳴海市内の路上を滑っていたところ、彼は久しぶりに表の社会へ姿を現したために珍しそうに辺りを見回していたが、その時。
「危ない!」
「うわっ?」
そのとき、目の前に二人の女の子とぶつかりそうになり、アキトは華麗なボードさばきで彼女たちの頭上を飛び越したのである。
「ちょっと!危ないじゃない?」
二人の内、金髪の女の子がそう叫ぶ。もう一人の紫色の髪の毛をした大人しげな少女は、金髪の彼女にしがみついて怖がっていた。
「ゴメンヨー!」
適当にそう言い投げて、アキトは気を取り直し図書館へ向かった。図書館はかれこれレッドの使いで何度も行っている。何時見ても図書館は大きくて立派な建物だ。よくこんな建築物を市民の税金で建てたものだよ?アキトから言わせれば税金の無駄使いである。
「ったく、よくこんな物を作ったもんだ。誰だよ、こんな無駄にデカイ図書館作りやがったのは……って、僕が知るはずないか?」
たぶん市長だと思うけど、一般常識など知るはずもない彼はそのまま図書館へと入った。いつもと変わらず室内は見慣れた本棚が立ち並ぶ風景。見あきたかのように彼はさっさと受付に本を返してこの場から立ち去ろうとした時のこと。
「もう少し、後少し……!」
「……?」
本棚の中に車いすに座った少女が必死で届きそうにない上の棚から本を掴もうとするが、
「……」
アキトはそれを黙って見ていた。その光景はまるで自分の過去と重なってしまう。届こうとしても届けない。掴もうとしても掴めない望み、かつて捨てられていた自分をつい回想してしまった。
「……やれやれ」
するとアキトは車いすの彼女の元へ歩み寄ると、本棚に手を差し伸べて、
「これ?」
と、彼はキョトンとする彼女にそう尋ねた。しばらくして彼女は笑顔で答える。
「はい、それです!」
「じゃあ、はい?」
アキトは本を取って彼女に手渡した。
「ありがとうございます!」
「別にいいよ?ったく、無駄に税金かけてるんだから、レッドが言っていた「バリアフリー」っていうのを設置しとけよな?」
「そうやね?ツッコミたいところやけど」
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