一人月を背負う
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心はもう漢王朝から離れてしまった。諸侯達には野心が芽生え、もはや乱世は止められない。なら自分達が喰われないためにも、乱世でのし上がり大陸に平穏を作るしかない。そのために必要だったから俺は他の諸侯達同様の理由で参加を是としたんだ」
理屈は分かる。黄巾の乱が起きてしまい、その後に私達も巻き込まれたのだから。でも聞きたいのはそこじゃない。
「劉備軍は民のためにと聞きましたが……」
この人は違うのか。優しい人だと思ったのに。
「そうだな。助けられる民がいるなら動く子達だ。とても綺麗で尊い事だ。けど……それだけだ。
乱世を生き抜くのには汚さが足りない。何が何でも救おうという想いが足りない。俺はな董卓。君のように利用されるものが出ない平穏な世の中を作りたいんだよ。必要ならばどれだけの今を生きる善人を犠牲にしたとしてもだ。
憎まれてもいい、怨まれてもいい、その先に恒久の平穏があるなら喜んでそれを受けよう」
強い覚悟を携えた瞳に気圧されてしまう。
彼はしっかりと未来を見据えていた。嘘を付いていたのでは無かった。
この人は私達に自分を憎めと言っている。その代わりに別の人には幸せを与えるからと。
自分勝手な理論。でもそれは……私がしようとした事と同じだった。
憎しみを自分に集めて民を救う。この人は私とほとんど同じ人だ。けど少し違う。
この人は自分から動いている。私は流されて最期にそれを選んだ。
「だけどな……生きて欲しいという想いを殺せはしない。少しでも多くの人が生き残ってほしい。だから俺は君に生きて欲しい」
泣きそうな顔で言われた。その表情は子供のように見えた。
「生きる事ができる可能性があるなら生きてくれ。精一杯生きて、平穏な世で新たな幸せを探してくれ。もしこの戦が自分のせいだと思うのなら、天寿を全うするまで生きて、平穏になった世を見て、君と君の周りが幸せになる事を罰としてくれ。君に生きて欲しいと願った人は、少なからず救われるだろうから」
それは厳しくて優しい罰だった。生きることの方が辛い、死をもって安息を得るよりも。でも詠ちゃんたちの願いは叶えられる。こんな私でも誰かを救える。
「ずいぶんな綺麗事ね、徐晃」
ふいに後ろの寝台から声がして振り向くと詠ちゃんがむくりと身体を起こしていた。
「あんた達が攻めてこなければボク達は幸せだったのに……最初から疑っていたなら、どうしてどちらが正しいか確かめなかったのよ!」
詠ちゃんの瞳は憎しみに染まっていた。
「少しでも助けがあればこんな事にはならなかった! 結局あんたは他の欲の張った諸侯達と同じ! 先の平穏なんかいらない! ボク達は今幸せが欲しかったの! 兵達を返して! 華雄を返して! ボク達の幸せを返してよ!」
詠ちゃんの向ける感情は正しい。でも……私には徐
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