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乱世の確率事象改変
一人月を背負う
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願に耐えかねたのかゆっくりと口を開いた。
「秋斗さんから指示があるまでここにいてください」
 絶望に染まった瞳で答えたのは朱里。
「秋斗殿が……関係しているのか?」
 彼が二人に何かしたのか? バカな。ありえない。彼は人の心を傷つける事を嫌う人だ。いつも飄々と誤魔化しているのはその優しさからなのだから。ここまで朱里が傷つくような事などするはずがない。
「桃香様、秋斗さんがシ水関の戦いの後で何を言ったか思い出して下さい。そしてご自分の理想を胸の内にしっかりと持っていて下さい。何があっても絶対に迷わない事です」
 真剣な表情で語る雛里は鬼気迫るモノだった。その表情は何か大切なモノを守ろうとしているようにも見えた。
 それ以上私達が何を聞いても雛里は答えてくれず、ただ時間だけが過ぎた。
 戦が終わったというのに、いったい私達の軍に何が起こっている。
 思考に潜っていると桃香様が立ち上がった。
「……やっぱりだめだよ、待ってるだけじゃ。あの人は私達から聞かないと何も話してくれないし何も答えてくれない」
 そう言って桃香様は天幕を出て行こうとした。
「桃香様……わかりました。秋斗さんの天幕に行きましょう。ただそこには捕虜の人が二人いるので刺激しないように静かにお願いします」
 いつの間に捕虜など捕まえたのだ。彼はたまによくわからない事をする。
「愛紗さん、別に傷つけたりはしていません。ただこの戦の事を話して頂いているだけですから」
 雛里の話に少し安堵する。私も彼が蛮行に出るとは思っていないが、それでも彼も男であるということが警戒心と猜疑心を持ってしまっていたようだ。
 心の中で彼に謝りながらコクリと一つ頷いて、ゆっくりと私達は秋斗殿の天幕に向かった。


 †


「――――そして今ここに至りました。そこまでが私の知っているこの戦の真実です」
 徐晃さんは真剣な表情で所々頷きながら私の話を黙って聞いていた。
「……わかった。ありがとう、話してくれて」
 彼は目を少し瞑り何かを考えてからゆっくりと息を吐いた。
「この軍の情報は入っているか?」
「はい」
 劉備軍の情報は入っている。正義のため、民のために戦ってきた人たち。嘘の情報に騙されてこの戦に来てしまった人達。
「正直に話そう。桃香達……他の劉備軍の面々と違い、俺は別に民が苦しんでるからとこの戦の参加に同意したわけじゃない」
 一瞬何を言ってるか理解できなかった。
「君たちがどんな存在であろうと踏み台にし、乱世を乗り越えて行く力を得るために同意した。この大陸を変えるために必要だから生贄にしたんだよ」
「それは……どういう事でしょうか」
 尋ねると彼は少し厳しい面持ちになり話を続けた。
「君なら分かるだろう? 中から漢を変える事はもはや不可能だ。民の
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