一人月を背負う
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「董卓殿」
話しかけても反応は無く、不審に思い近づいてみると呟く声が聞き取れた。
「いやだ、死にたい、もういやだ、生きてたくない、私のせいだ、私が巻き込んでしまった、誰か……殺して……」
ああ、これは俺だ。そして救う術も俺は知ってる。だが、俺はまた……引きずりこんでしまうのか。しかし最後にどちらが幸せかこの子が自分で決めればいい。
「董卓、話を聞け」
肩を軽く掴んで無理やり身体を起こし目を合わせる。涙が溢れ、目の焦点は合わず、瞳は絶望に濁り、生きることに疲れ切っていた。彼女は安らかな死を望んでいた。
「華雄はお前が生きる事を望んでいた」
その言葉にびくりと反応し、こちらに意識が向いたのが分かった。
「お前のせいで死んだんじゃない。お前は悪くない」
「いいえ! 違います! 私に力が足りないから! だから皆巻き込んでしまった!」
俺の言葉を聞き弾けるように必死で返答してきた。
このままでは自責の念に潰される。方向を変えるか。
「お前は助けようとしたんだろう? 手を差し伸べたんだろう?」
ゆっくりと言い聞かせるように言うと彼女は少し考えた後言葉を返す。
「……そうです。私は助けたかった。殿下を、洛陽の民を、この大陸を……」
「誰が責める? その心を、その想いを」
「死んでいった人が責めます。生き残った洛陽の民が責めます。私が居なければ、私がここに来なければ……」
「……じゃあそこの少女はお前を責めるか?」
言うと同時に手を放すと彼女は振り向き、寝台に向かって行った。
「詠ちゃん……」
未だ眠っている少女を見つめて少し落ち着きを取り戻したのか静かにこちらを向き椅子に腰をおろした。
「取り乱してしまい申し訳ありませんでした」
「いいよ。それよりお茶を飲もう。少しゆっくりしないと思考はちゃんと回らない。甘いモノがあれば尚いいんだが今は無いし……」
すっと立ち上がって先ほどの残りのお茶を湯飲みに入れる。
董卓に片方を差しだし二人でお茶を飲む。うん、うまい。
「あまり無理をするな。先ほどまで倒れていたんだから」
追い詰めたのは俺のくせによく言う。自分の罪深さに吐き気がしたが気力でどうにか抑え込んだ。
「……私が眠っていたのは詠ちゃんが私を助けようとしたからです。王として死ぬ事を望んだ私を生かしてくれる為に」
……この子は覚悟を決めていたが仲間に生かされたのか。生きてくれと願う仲間の想いを裏切ってでも責を果たそうとした。そして同時に……休みたかったんだな。
「すまないが聞かせてくれないか? 董卓軍の真実を。君には辛いかもしれないがそれを聞いてからでないと何も進まない」
眉間に皺を寄せしばらく逡巡した後、董卓はゆっくりとこの戦の真実を語り始めた。
†
どうして? なんで?
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