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乱世の確率事象改変
彼の救い
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、顔で、戦場に、向かって」
 しゃくりあげながらもなんとか紡がれた言葉に衝撃を受ける。
 俺はそんなふうに見えていたのか。
「ごめん、雛里」
 ただ泣きじゃくる雛里は軍師ではなく一人の少女だった。
 こんなにも心配を掛けて、不安にさせて、俺は大馬鹿だ。この優しい子にだけ話してしまったから余計不安が大きくなったんだろう。
 申し訳なさが胸にこみ上げてくると同時に、最低だとも思うが少しの嬉しさが湧いた。
 雛里はそれでも耐えて送り出してくれたんだ。どれだけの言葉を呑みこんで、どれだけの想いを抑え付けたんだろうか。俺は雛里に本当に支えられているな。
 バカ、バカと何度も繰り返す雛里の背を撫でながら落ち着くまで待つことにした。

 少し落ち着いたのか、まだ少ししゃくりあげているが身体を離し、俺と目を合わせて来たので何か言いたい事があるようだった。
「……戦場に安らぎを求めてはダメです。自分を大切にしないとダメです。自分の命を投げ捨てるような戦いをしてしまったら、あなたに従う徐晃隊も、死んでいった人たちの想いも、助けた人々の願いも、誰が助けるんですか。今回は私達の未熟から秋斗さんに全てを押し付けてしまいました。民のためにも、私達のためにもなったでしょう。でも……それでもダメです。それではいつか一人になってしまいます」
 たくさんの偶然が重なったからこそ俺は大した怪我も無く今回は切り抜けられた。雛里の戦場を見る目があったからこそ生き残る事が出来た。徐晃隊が命を張って従ってくれたからこそ俺は死ななかった。
「兵と将は違います。命を賭けるのは正しい。でも絶対に命を投げるように戦ってはいけません。将が倒れてしまえば、率いる隊も死んでしまうのですから。あなたの想いも繋げなくなるのですから」
 矛盾した事柄だが、まさにその通りだった。
「それに……私は秋斗さんがいない世界は……嫌です」
 最後に零したのは優しいわがまま。無茶を咎め、理論的に諭す軍師のモノではない。生きてくれと願う、ただ一つの強い想い。
「ありがとう、雛里。……それと……ただいま」
 多くは語らない。言葉はこれ以上いらない。
 雛里を緩く抱きしめて耳元で囁き、
「おかえりなさい、秋斗さん」
 少し身体を離し顔を見ると見惚れてしまう綺麗な笑顔で返してくれる。その笑顔は暖かくて、自分が見たかったモノだった。
 ああ、俺はこの子に救われている。俺はこの子に何か返せないだろうか。
 そう考えても答えは出ず、再び抱きついてきた雛里を抱き上げて、あわあわと慌てているのを苦笑しながら流して、次にするべき事のために動き出した。



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